(お題配布元:確かに恋だった様)
鈴虫の声。
秋、というにはまだ暑い、でもほんの少し涼しくなってきたそんな夜。
「ふふ、クラウドに会えるなんて驚いたわ。」
「ああ、俺も。…何買い忘れてたんだ?」
「明日の朝食用のパンと、それから…今夜の仕上げに使うつもりだったチーズ、とかね。」
昼間の買い出しで忘れてしまっていた食材を買いにスーパーへ行った帰り道のことだった。
デリバリーのお仕事から我が家へ向かうクラウドに会ったのは偶然。
ああ、なんだか運命感じちゃうな、なんて。そんな風に考えたのは秘密。
「もしかして今夜は牡蠣のチーズ焼きか?」
「あ、ばれましたか。」
「…今俺の腹鳴った。楽しみにしてる。」
「食べたいって言ってたもんね、クラウド。仕上げさえ終わればすぐに食べられるから。」
微笑んだクラウドが頷いた。月明かりに照らされた彼の眩しい髪色に目を細める。
「……お腹空いたなら、もう乗って帰る?」
彼が押して歩いていた愛車を一瞥してそう尋ねると、彼は首を横に振った。
「…このまま、ティファと歩いて帰りたい。」
最近こうして並んで歩くこと…少なかったから、と、クラウドは続けた。
私、フェンリルに、クラウドの後ろに乗って走るの大好きよ。…でも、実は今日の私、クラウドと同じこと思ってた。
バイクを押して歩くのって大変だってわかってるけど、それでもゆっくり歩けたら、なんて思ってた。
同じこと考えてたなんて、やっぱり…運命感じちゃうな。
「ティファ。」
不意に私の名前を呼んだクラウドが立ち止まった。
半歩進ませかけた足を元に戻して彼と並ぶ。
「ごめん。ちょっと、待ってくれ。」
バイクを押す手が疲れたのかと思いきや、今まで両手でフェンリルを支えていたクラウドは片手だけをそれに残し、空いた手をこちらに伸ばしてきた。
伸ばされた手は私の頭を捕えて―――
ほんの少し長く、でも優しく、口づけられた。
「…ごめん、ちょっと、したくなった。」
私といえばあまりに急なことに体を動かすことすらできずにただ茫然と立ち尽くしていて。
本当ならいつもは外でしないで、とか、急にこんなことしないで、とか、そんな風に意地っ張りなこと言っちゃうけど。
でも今は、
「もう…ばか。」
なんて、恥ずかしさに俯くことしかできなかった。
だって、月明かりの中の彼の照れ笑いが、すごく可愛く思えて。
そんな風に甘えてくる彼がとっても可愛くて。
反則も悪くないなと思いました
END