短編 | ナノ
Sweet Homeのお話

12月24日。
3才の娘たちにとってクリスマスとは大イベントの1つであり、2人は何日も前からこの日を待ち望んでいた。
ワクワクドキドキしているのが見ているだけでワタシにも伝わってきて、自然と頬が緩む。隼人もそれは同じみたいで、互いに相手のにやけ顔を見てはからかったりしていた。まあ気付かない内に自分もそうなっているのだから返り討ちを食らうのだけど。
クリスマス・イヴの今日は家族4人でクリスマスパーティーをした。“ごちそうだ〜!”と目をキラキラとさせてクリスマスディナーを頬張っている2人はとっても愛らしく、微笑ましくて、同じことを思っているだろう隼人と目があってはお互いに頬を緩ませた。そんな今が泣きたくなるくらい幸せで、心がキュッとなる。
楽しいクリスマスパーティーを満喫した後、娘たちは“いいこのとこにしかサンタさんはきてくれないんだよ!だからはやくねるの!おやすみなさい!”と言って駆け足でベッドに潜りこんでいった。

そんな良い子の娘2人へのクリスマスプレゼントを枕元に置いて、隼人と寝室に向かった。
こども部屋を出るとき、いつものように隼人が娘たちにキスを落とそうとしていたので全力で止めた。それで起きたら困るから。なんとか言って誤魔化せるかもしれないけど、こんな日に誤魔化しというウソを2人には吐きたくないから。

寝室に着いてベッドに腰掛けるとなぜか肩の力が抜けて、クリスマスに似つかない“クリスマスについての思い出”が頭に浮かんだ。
それはワクワクしていたこの数日間にも頭を巡っていた。いや、それだけじゃない。もう2人が生まれる、隼人と結婚する、出会う、ずっとずっと前から。
こちらに背を向けて何かをしている隼人をぼうっとする視界で眺めながら言葉を零した。
「ねえ、隼人はさ、いつまでサンタさんを信じてた?」
「…サンタ?あ〜、多分家出るまでだな」
「多分?」
「家出てからはクリスマス自体意識しなくなったからな、信じるも何もカンケーねぇよ」
「そっか…」
それだけ言って黙り込んだ。
突発的な質問と急に黙ったワタシに何かを感じたのだろうか。隼人は何かしていたのを止めて隣に腰掛けると頭をポン、と撫でてくれた。
「お前は?」
「ワタシは…」
「ん?」
言葉に詰まったワタシに急かさず優しく待ってくれる隼人に、意を決して思っていたことを話した。
「ワタシは4年生くらいまで信じてたの。だけど小学校って色んな子がいるでしょ?公立なら尚更。それでマセてるとゆーか、家が放任な子に“サンタなんていないんだよ、それはパパとママなの。ワタシはプレゼントの代わりに5千円もらったんだよ”って話を聞いて幼心にすごくショックを、ダメージを受けたの。信じてたものは本当はなくて、それはママとパパだったなんて…」
「そのときはウソをずっと吐かれてたんだって、お菓子と手紙をママと一緒に書いてたのもなんだか物凄くバカにされた気分だったの。まだこどもの夢を壊さないためのウソだってことも分からない、優しいウソをしらない。ウソは全部悪いことだって思ってたから」
「それがあってから人を疑うようになったの。ワタシの思う“真っ白な心”がここでなくなった。次の年からママに“サンタさんなんていないんでしょ!”って問い詰めたりわざわざどこにプレゼントが隠されてるのか見つけようとしたり、もうなんか意味もないけど意地になってた。意地だけのために疑った」
「その1年後くらいに今度はその子に赤ちゃんの作り方を聞いたの。それはサンタさんのこと以上にショックを受けたな…」
「エッチってゆう行為は知ってても、それは特定の、そーゆう厭らしい悪い人たちがするものなんだ!ってずっと思ってたから…。それで自分が生まれたんだって思ったらもうどうしようもなくて、ママもパパも軽蔑して。でもワタシの憧れてる家庭は“ソレ”をしなきゃ作れないんだって思ったら…もう絶望したな」
「そんな風に、これから心愛と乙愛も生きて、成長していくにつれて色んな人と出会ってふれ合って…。多分ワタシみたいに信じていたものがなかったって、ウソも、汚いものも、みんな見て知っていく。いつかは通らなきゃいけない道だとしても、それをあの子たちに経験させなきゃいけないと思うと胸が痛むの、張り裂けそうなの。幼い、純粋な心のままでいてほしいって思っちゃうの…」
ワタシはずっと心の中でグルグルと渦巻いていた黒いもの、そしてワタシの大きなエゴを全部一気に吐き出した。