短編 | ナノ
「…んな顔すんな」
泣きはしなかったけど、多分泣きそうな顔をしていたんだと思う。隼人はワタシにそう言いながらぎゅっと抱きしめてくれた。何も言わずにただ抱きしめてくれる隼人に安心した。なんとなく後ろめたい気持ちがあったから。
こんな風に幸せな気持ちでいままでクリスマスを過ごしてたクセにこんなこと…。本当はどっかこういう思いがあったってこと、それで全部を楽しんでいられなくてどこか隠してた、ウソの仮面を被ってたって思われて隼人の気持ちが離れていっちゃうかなって、完全に離れることはないけどほんの少しは離れちゃうかなって。図々しいと思われるかもしれないけど隼人の全部はワタシが独り占めしたい。そのほんの少しの気持ちでさえも。離れて行ってほしくないんだ。
「…オレだってそうだぜ?2人には真っ白な心でずっと今みてーに天使でいてほしいと思ってる。だがそれは無理だ。完全にとは言えねぇが基本無理だ。成長していくにつれて色んなことを学んでいく。それは生きていくためだ。キレイな心のままもいいかもしれねぇが、多分それじゃあ生きていけねぇ。悪いヤツに騙されて最悪どうにかされちまうかもしれねぇ。そうならねぇように、色んなことを学んでほしい。希子みてぇにショックを受けることだってあると思う、それでもアイツ等の母親はこうして綺麗な純粋な心を持ってるじゃねぇか。ぜってぇ大丈夫だ!もし父親に似ちまったら、そうしたらオレたちで支えていけばいい、育てていけばいいじゃねぇか」
隼人の言葉が心にじわり、と溶け込んでいって心が温かくなる。そーゆう考え方だってあるんだと希望を持つことができた。そうだよ、その為の親じゃないか!ワタシだって今そんな負の感情を持ち続けていないのだって両親のおかげなのだから。それに気付かなかった自分が酷く愚かで、でも隼人の言葉が嬉しくて…。
「…パパに似たって、大丈夫だよ。こんなに真っ直ぐで優しい心を持ってるんだから」
「そうか、…そうだな!」
抱きしめていた腕を掴まれ離されて、お互いの顔が見えるようにされる。それから隼人はニカッと無邪気な笑顔を見せてワタシの頭をくしゃりと撫でた。
それがまた幸せで、ワタシも同じように笑顔を見せる。気付かないうちに涙が頬を伝っていて、それを隼人が優しく拭ってくれる。
「それにな、信じてるヤツにはサンタクロースは来てくれるんだぜ!」
その言葉にキョトンとするワタシにさっきと同じように無邪気な笑みを向ける隼人。
「今からお前もサンタクロース信じればいいじゃねぇか!来てくれるぜ!だが今から準備するのはサンタも大変だと思うから今年はソレで我慢な」
「えっ?」
隼人の指先を視線で追う。そこには密かにずっと憧れていたネックレスが…。
「ウソ!全然気付かなかった!いつ、いつ着けたの!?」
「さっき抱きしめてたとき」
ニヤ、とキザな笑顔でそう言う隼人がぼやけて見えなくなる。
「…隼人!ありがとう!だいすき!」
思い切り抱きついて、首筋に顔を埋める。
「あぁ…。だが泣かせる為にやったんじゃねぇよ、泣き止め」
またもや引き離され、顔が向き合う。そして瞬く間に隼人の顔がどアップになった。
「泣き止めって、な?」
不意打ちのキスはいつになっても慣れない。ビックリして涙も止まってしまった。
「やっぱりお前の涙を止めるにはこれが1番だな」
ニヤリと笑う隼人にもう降参だ。これだけやられては敵わない。もちろん嬉しい方だけど。
「へへっ、もう隼人だいすきだ〜!!!」
だいすきの気持ちが溢れてたまらずぎゅうっと抱きしめる。だいすき!
「あ!」
「どうした?」
「ワタシ隼人にプレゼントないよ!」
「あ?んなのいらねぇよ。お前には毎日幸せをもらってるからな」
「…キザ〜!」
「っ!うるせぇ!ホントのことなんだからいいんだよ!」
隼人は少し照れてしまったのか1人でベッドに潜ってしまった。
「あ!ワタシも一緒に寝る〜!」
広いベッドの中で隼人を追いかけて、ぎゅうっとくっつく。
「ごめんって。ワタシ、キザでもうれしかったよ!」
「ねぇ〜一緒に寝ようよ〜」
「寂しいよ…」
こっちを向いてほしくて、隼人の弱いしょんぼりした声で呟く。
「ったく、仕方ねぇな」
やっとこっちを向いてくれた隼人に抱き寄せられて、ワタシの心はキュンと鳴る。
「隼人、メリークリスマス」
「メリークリスマス、希子」
どちらともなく触れるだけのキスをしてワタシ達は眠りにつく。

夢の中へと引き込まれる瞬間、ジングル・ベルが聞こえた気がした。