『私もいきます。偵察。』
自分でも思った以上に声が出てなくて
何とも頼りない発言になってしまった
頭がついていかない。
冷静に起こったことを"現実"として分析処理する
一方で思考を停止して楽になってしまいたいと足掻く自分が交互にやってくる
あれからまさに目まぐるしい。というものだった
頭の中で生徒の甲高い悲鳴がまだ響いている
あまりにも突然の出来事で血を流しながら校舎に駆け込んでくる生徒を誘導するだけ
自分でも立っているのがやっとだった
あの大男が西野君に振りかぶっているとき
とっさに身体が動いたが結局小さく1歩右足が出ただけだった
何も出来なかった
皆が体育館に集められた中
ゲガをしている生徒に止血してまわる
あまりにも大きい傷を追った生徒は体育館にはいなかったが、それはつまり怪我を追った大半の生徒が助からなかったということでもあった
涙を流す生徒に私は何も言えなかった
震える背中にただ手を載せて撫でることしかできなかった
暗くなり電気もつかない中
教師と生徒会長である松本くんが集まって話をした
電気や水が使えるか、学校中を回って確認したけれど駄目だった
食料は災害用に備蓄していたものと食堂に残っていたものだけ
「明日の偵察についてですが。」
「しかし、外に出るのは・・・。」
「待っていても状況は酷くなるばかりです。」
「教師も数がな・・・生徒複数と教師とで行くか。教師も何人かは残ったほうがいいでしょう。」
「しかし、一体だれを・・・。」
なかなか進まない話し合い
誰だって怖いのだ
自ら進んで外に出たくなどないはずで
「武道系で体格のいい男子生徒を選出しましょう。」
松本くんを中心に徐々に話が進んでいく
大人は逃げる術を躱す術を
自分を守るためには惜しみなく使う。そういうもので
でも私は"先生"なのだから彼らを守らなければならない
怖い。本当に。
もう、泣いてる余裕もないほどに怖い。
でもそれはきっと彼らだってそうだ
考えなくちゃいけないけど
考え過ぎちゃだめだ
『私もいきます。偵察。』
ああ、声が全然でていない
「桜子先生、そんな、先生は女の人ですし、怪我してる子についていてほしいので、偵察は俺たちで行きます。」
そう言う松本くんはまっすぐに私をみていた
「そうですよ、さすがに戦国先生に行かせるわけには・・・。」
自分で言ったことなのにどんどん苦しくなる
『ですが・・・。』
「生徒には私がついていきますから。」
「まぁ・・・本人が立候補してくれているなら、行ってもらいましょうよ。戦国先生なら応急処置もできますしね。緊急事態なんですから男も女もないでしょう。」
「ちょ、先生なにを・・・。」
その後も松本くんが反対し続けていたけれど
松本くんの班に私ともう一人教師がつくことで話はまとまった
他人ごとのような感覚と
受け入れられない現実と
教師としての理想と責任感がぐちゃぐちゃ入り混じった言いようのない心地の悪さを呑み込んで
明日に備えて目を閉じた
ただひたすら私は目を閉じ続けた
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