シトラスの香り





ビデオをみながらのチア解説が終わった。
素人の集団がこのビデオのような演技をするためには練習しかない。
カズくんの解説をいちいち野球に置き換えて考えるイチローくんと弦くんにちょっとイライラしながらも、ちゃんと要点を纏めてメモがとれたと思う。よかった。

「練習すれば、絶対俺達もできるようになる」カズくんがそう呟いた。


「まず、宿題な。毎日倒立をすること。」

倒立の重要性を説いて、カズくんはその場でピッと倒立をしてみせた。
す、すごい。身体が真っ直ぐに伸びていて、きれい。

それに続くようにハルくんとイチローくんと弦くんがパッと成功させる。
運動してた人らはすぐできるんかな?と感動する。

溝口くんは出来てはないけど、頑張れば出来そう!という感じ。
トンくんは三点倒立はできるけど、二点ははなかなか厳しそうて、本人も暗い表情をしている。
たしかに、壁使ってならまだしも、二点は難しそう。トンくんが暗い顔で下を向く。

『よっ!あっ、わあ、っと。』

「○ちゃん!?」

「お、おいっ!」

ぐっと、やった事のない倒立にチャレンジしてみた。
一瞬だけ身体が真っ直ぐになったけど、そのまま後ろに倒れそうになって、怖くてぐしゃっと腕から崩れる。

『めっちゃ難しい。トンくん、一緒に頑張ろう!ね!!』

「う、うん。」

勢いのままトンくんにそうつげると、ぽかんとした顔のあと、笑ってくれた。
うん、普通できないって、だから大丈夫!がんばろう!

「○、お腹みえたで、もっかいやってや。次ちゃんと見とくから。」

『………。』

イチローくんまじ最低。ぐっと、ブラウスをズボンにインした。





溝口くん家でご飯が食べれる?と思ってたけど、それは叶わず。
近くにおいしい中華があるぞ、と溝口くんが言ったのでそこに行こう!となったものの
溝口くんが言う中華ってお値段大丈夫なのかな?と少し心配になる。

私が心配しているあいだに、新たにスカウトしたい人の話になった。
どうやらまた体育の授業にみんなで潜入する流れになりそうだ。

「プリンス系イケメンやからなぁ。イケメン苦手やねーん。」とイチローくんがガサツに笑った。

「○に声かけてもらう?女の子に声かけられて邪険にせえへんやろ。」

「それええやん。○!行ってこい。」

えっ!?やだよ!人見知りなのに?
なにいいこと思いついた!みたいにいうの?まじで関西組いい加減にしろ。
プリンス系イケメンはちょっと気になるけど。

『無理だよ。私もイケメン苦手だし。それに私その時間他の授業受けてる。』

「なんやー。残念。てかイケメン苦手てなんなん?ほんなら○は俺も苦手なんかぁ。」

『………。』

「てそこツッコんでぇや。」

『うん、イチローくんイケメンだもんね。』

「……ちゃうちゃうそっちちゃうし、心こもってないし。」

「よかったやん、イチローイケメンやって。」

ちょっとこの二人黙らせて欲しい…。切実に。







「え?○最寄り駅一緒やん。」

『え、そうなの?』

「やば、運命やん。」とイチローくんがおちゃらけて笑うと同時に駅についた。
皆に挨拶をして一緒に電車を降りる。

「どのへんなん?」

『あっちの2番出口の方だよ。』

「あ、ほんならちょっと方向ちゃうか。」

『そうなんだ、じゃあ、またね。』

ピッとまごつかない様に用意していたICカードを改札にタッチして出る。
適当にイチローくんに声をかけて、ゴソゴソとカードを次に使いやすいようにバックのポケットにしまう。

「いやいや、送ってくわ。もう遅いし。」

『え。』

「真っ暗やん。心配やし。」

『あ、でも、悪いし。そんなに遠くないよ?』

「遠くないならええやん。ほら、行くで。」

こっちか?と出口に向かって歩き出すイチローくんを慌てて追いかけて隣に並ぶ。

『ありがとう。』

たしかに、そんなに遠くはないけどまだ東京の夜に慣れてないからありがたい。
少しぬるい風が私達二人の間を吹き抜ける。風に乗ってふわっとシトラスの爽やかな香りがした。

「あー、ほんまにカズと付き合ってないん?」
急に喋りだした内容にビックリする

『付き合ってないよ!』

「なら、カズのこと好きなん?」

『いや?別に。普通にカズくんいい人だなーってかんじ。』

私そんなにカズくん好きっぽい行動とってるかな?とちょっと思い起こすけどよくわからない。なんなら溝口君のほうが喋ってる気すらするし。
特に恋愛感情はないつもりなんだけど……。
イチローくんはあんまり納得してないような表情で「そうか。」とだけ呟いた。

その後はイチローくんの高校時代の野球の話とかを中心にいろいろと話しながら夜の街を二人で歩くとあっという間に家の前についた。

『ついた!イチローくんありがとう!』

「………て、めっちゃ遠いやん!普通に遠いやん!え、何分かかった?」

スマホの時計をみながらイチローくんが喚く。

『えっと、15分くらいかな?』

「めっちゃ歩くやん。遠ない言ってたやん。」

『遠くないつもりだったけど、夜は小走りで帰ってるから大丈夫だよ?』

「それ、大丈夫ちゃうやろ。」

家賃を抑えたくて、ここにした。だって田舎からしたら徒歩15分って近い方だと思ってた。しかも実際は20分位かかる、さらにちょっと気を抜くと25分かかる……。夜もちょっと怖いけど以外に街頭あって明るいし、一応用心して小走りで帰ってるけど。

「遅くなる時は送ったるから一緒に帰ろう。」

『え、でも。』

「でもちゃう。じゃあな、また。」

『あ、うん!またね!ありがとうイチローくん。おやすみなさい。』

「ん、おやすみ。」

ふっと優しく笑ってイチローくんは帰っていった。
やっぱりうぇーい系の人は女の子扱いが上手いのだなぁ。と関心した。

一応その後
(送ってくれてありがとう!おやすみなさい。)とLINEすると
(まかせとけ、おやすみ。)とシャワーしている間に返信がきていた。
暖かい気持ちになって、そのままベットにダイブした時。
グループLINEで倒立報告がぶわっと来たので
あわてて私も倒立の練習に励んだ。
















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