クリスマスがきてしまう。

あれから私は総一郎とまともに会話をしていない。
何日かは、練習が終われば『先に帰ります。』とLINEをすれば。適当な了解スタンプが送られてきていたけど
それも私が辞めてしまえば、彼とのトーク履歴はそれでストップした。

何回か戯けた感じで声をかけられたけど
適当に笑って流した。きっと上手く笑えてなかったんだろう。
そのやりとりも、なくなって。

あるとしたら、練習中に事務的な会話のみ。
それすら私は目を合わせられなくて、でも何でもない風を装って受け答えをする。
総一郎は、こっちをしっかり見ているのがわかって、余計に目が見れなくなる。

練習後の皆とのご飯はなるべく行きたかったから、総一郎がバイトの時にハルに声をかけて一緒に行ったりした。

幸いな事に練習中にもともとそんなに私達は絡むことがなかったので、誰も何も思わなかったようだった。

私と総一郎の気まずさなど些細なものと思えるくらいに
チームの雰囲気はよくなかった。

総一郎は、相変わらずこちらの感情を波立たせるような発言をしていたものの
ここ最近はふざける事はあっても、それ以上の事は言わなくなっていた。
少しだけ彼の雰囲気が変わった気はしたけど、何がどう変わったのか避ける事を選択してしまった私にはわからなくて
私はまた気づかないふりをしていた。


『カズ?』

「あ、ああ。○。えっと……。」

『大丈夫?』

カズもハルもここ最近なんだか心ここにあらずな時がある。

カズの太陽みたいな笑顔が好きだ。
このチームに入ったのもカズの笑顔を追ってきたみたいなもので
なんであんなにも惹かれたんだろうか。と現実逃避の様に自分の気持ちを分析してみる。
総一郎への気持ちは分析できないのに
それを払拭するようにカズに集中する。

少し考えただけで、思ったよりもその答えはスルスルと簡単に出てしまった。

カズの笑顔は太陽みたいな温かい笑顔だ。

自分のことを真面目で面白みがなくて、つまらない人間だと思ってきた。
人の目を見るのが苦手て、つまらない人間だとバレたくなくて
相手の警戒心を解くような上辺だけの笑顔だけ上手になった。
「女の子は愛嬌よ。」ずっとそう言われて育ってきた。
本当にそうだと今でも思う。
その考えは私の中に染み付いて、人見知りなわりには受け流す術を覚えることができた。
でも結局つまらない人間にはかわりなくて
ずっと何かに怯えている臆病者だ。

だからあんなに楽しそうに太陽みたいに彼が笑ったのを見て
同じものを見てみたくなったのだ。
そうしたら、同じ笑顔を私もできるのかな。と思ったのだ。
皆を照らすあの眩しい笑顔。

ああ、私はカズみたいに笑いたかったんだ。
スッと納得。10分くらいで納得した。


だから、最近の彼の笑顔に霞がかっているのが気になる。
でも、私ごときがその霞を払えるとは到底思えなかった。臆病者な私は彼の内側に飛び込むことはできなかった。


『カズは、太陽みたいに一緒にいるとあたたかくなるよね。』

「え、なに○。」

『んー…そう思ったから?』

「○って、たまに恥ずかしいことストレートに言うよな。」

『そうかな?』

「そうだよ。」

『今言わなきゃと思って。』

「なんだそれ。」

少しだけカズが笑ってくれた。まだ霞は晴れないけど、少しでも伝わればいい。
ちっぽけだけど、私みたいにカズの事が好きな人がいるということが伝わればいい。


でもじゃあ、カズの好きと総一郎の好きはなんでこんなに違うんだろう。



「クリスマスプレゼントをあげるわ。」

コーチのプレゼントをきいて、むしろいままで決まってなかったっけ。と思ったほどだ。
キャプテンはチームの太陽。それを聞いて、なんだか、タイムリーだな。とちょっと面白かった。



「○ちゃんは今日予定ある?練習以外で。昨日はすぐ帰ってたけど、そのなんか予定あったの?」

『んー、予定?あるけど皆でなにかするの?』

「えっ!!!○ちゃんクリスマス予定あるの!?」

俺の天使なのにー!と大げさにタケルくんが騒ぐ。

「なになに?○ちゃんデート?」

『卓巳まで…。』

皆で集まってご飯でも食べるのかな?それなら予定空けとけばよかったかも。

「○ちゃん!デート?」

『バイトだよ。』

「「え。」」

『みんなシフト入りたがらないって泣いてたから、入ったの。2日とも。』

「バイトかぁー。○ちゃんとクリスマス過ごしたかったぁ!俺の唯一話せる女の子なのに!!」

「バイトのあとは?途中参加ありだよ!」

『ごめんねぇ。バイト終わったらバイトの人とご飯行くからどうかなぁ。んー。』

「は………、そ、男?」

『男だけど、たぶん皆と一緒だし。年上だよ?』

「と、年上って何歳?」

『なんさいだろ、35くらい?』

「だめだよ!○ちゃんの処女食べられちゃうよ!」

『おい、卓巳。だまれ。』

「○ちゃん、結構言うようになってきたよね。」

『あんたらがそういう事ばっかりいうからでしょ!』





「おつかれさまー!昨日も今日もありがとう。」

『おつかれさまでした!ごちそうさまでした!』

「本当に送っていかなくて大丈夫か?」

『自転車ですぐなんで!あとコンビニ寄っていきたいので!!』

「そうか、ならまたよろしく。」

『今年はお世話になりました、来年もよろしくお願いします。』

「なに!?そか、そうだったわ。来年もよろしくな。」

『はい!良いお年を。』

バイト先の上司がクリスマスだからチキンを食わせてやろう!とちょっといい焼き鳥屋さんに連れて行ってくれて、時間も遅いからとほんの小一時間。2杯だけいただいた。
大学生なんだし、恋してないの?おじさんに教えてよ。なんて言われて、素直に気になる人がいますと言ったら。きゃー!純情!いい!とわざとらしく喜んでいた。また時間があるときに話して!とうきうきしていた。大人になると恋話とかないからね、おっさんにトキメキわけてくれ。と言われて完全に冷やかしてくるだろうなと思ったけど、それでもこの気持ちを他人に吐き出せて少しだけ嬉しかった。

年末の疲れと相まって、アルコールは私の身体を心地よく鈍らせる。
この寒いクリスマスの夜には鈍った身体がちょうどよくて寒さが和らいだ気がした。

送ってもらうのを断る口実にしたコンビニを素通りして、私は総一郎のアパートにむかった。
自転車を取りに行くだけだ。

今日は、皆で集まって飲んでるだろう。まさかあの総一郎が一人でクリスマスを過ごすわけがない。

まだ明るさを保つスーパーを超えて、アパートの駐輪場を目指す。

どこにでもありそうな、なんの個性もない紺色の自転車に近寄る。
冷たい指先でカバンの中から鍵を探す。

『……?』

自転車のカゴになんか入ってる。
え、ゴミ箱扱い?一瞬戸惑ったけれどすぐにそれが何かわかった。
白いコンビニのビニール袋に、ルーズリーフを半分に折りたたまれて袋に貼り付けてある。

(おつかれさま。)

総一郎の意外に綺麗な字でそう書かれていた。

中にはきちんと綺麗にラッピングされた袋。取られないようにゴミ袋に入れたのかな?と意図がわかって少し面白かった。

中身、ここで開けていいかな。
寒さなんて感じる隙間もない。

プレゼント用のちょっとサラサラとした手触りの袋にかけられた。ゴールドにキラキラと光るリボンをゆっくりと解く。

小さいポーチの様な袋がまたでてきて、ひと目見ただけでなんかめっちゃオシャレなロゴでオーガニックのいいとこのブランドなのがわかった。

ハンドクリームとリップクリームのセット。

なんかリアル過ぎるラインのチョイスで、あまりにもセンスがよすぎてびっくりした。
でも素直に嬉しい。

もったいないから、少しだけ手にとって両手に伸ばす。
指先に絡めるように優しく伸ばして
両手で鼻を覆って、すぅっと大きく息を吸い込んで身体全部で香りを感じる。

爽やかで優しくて甘い。

ブラッドオレンジとハニーの香りが身体の中に溶けていった。
これが、オーガニックハニーか。と、想像していたよりも爽やかだけど可愛らしい香りに一瞬で虜になった。

うれしい。

プレゼントを大事に鞄にしまう。
それと引き換えるように、奥から包装された袋を取り出す。
あまりに総一郎からのプレゼントのセンスがよすぎてちょっとびびっている。
渡そうと思ったけど、どんな顔して渡せばいいかもわからなくて
多分渡せないだろうと諦めながらも一応カバンに忍ばせていた。

なんの捻りもないけど、
綺麗に箱に入ってラッピングされたプレゼント手に持つ。

フェイスタオル

いや、ちゃんといいブランドのやつにしたけど。タオルて、タオルて!引っ越しの挨拶じゃないんだから!
でもこのくらいがちょうどいいかなって思ったんだもん!
重くないし、かと言って消えものだと寂しいし。う、もし渡せなくても自分でつかえるし。
意外にアパレルブランドからオシャレなタオルって出てたから
自分で自分に必死に言い訳をしながら、行きなれたアパートの階段を登る。

玄関の前に立つ。スマホを取り出す。終電ギリギリの時間だ。
多分帰ってない。よね。インターホンは押せなかった。
カバンからルーズリーフを取り出して半分にちぎる。

(いつもありがとう)

玄関越しに書いたから、少し字が歪んでしまった。
ドアノブに掛けとこうと思ったけど、ちゃんと箱に入っててそれなりの袋に入ってるから大丈夫かな?まぁ、大丈夫だよね。
朝帰りだとしてもうこの時間だし。

(ありがとう。ドアにかけてます。)

なんか色々と言うのが恥ずかしくて、それだけ送ってスマホをポケットにしまった。

もう一度スウッと指先の香りを吸い込んで、私は階段をゆっくりとおりた。














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