289日目の真実

14日間限定の飼い猫
21日目からの恋人
*100万hit企画アンケート4位作品
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もう随分前、僕は猫だった。
ゲイであることを明かしたらあっさりと親に捨てられた。
高校をやめてそのままふらふらと。
一生ものの恋だと思った恋はあっけなく終わって僕に残ったのはこの身体だけだった。
1晩だけと言う男はたくさんいた。
でも安売りなんかやるものかと日雇いの仕事をしてなけなしのお金で清潔だけを保って。
それが尽きたら1人で野宿して、ふらりと歩き回って。
とても寂しくて。
1晩だけでもと人肌を求めた日から僕は猫になった。
猫になってしまえばその生活はよかった。
縛られたことだってあったけど僕は猫だ。
するりと抜けて違うところへ行く。
猫がいると噂になって、都市伝説の様になって。
その頃に何度目かの恋をした。
でも振り返れば自分は薄汚い野良猫だった。
声だって掛けれぬままスーツを着た血統書付きの犬を彼はさらっていなくなった。
ふらりふらりとその店を訪れればまた彼がいた。
その日は綺麗なシャム猫のような彼を。
また違う日にはドーベルマンのような目をした彼を。
そのまた違う日にはマルチーズのような彼を。
辛くなって見るのをやめようと思うのに見つめる瞳だけは自分の悲鳴を聞いてはくれない。
次に見た時には豚のような男といた。
随分と趣向が違うと思えば早々に酔い潰してマスターに引き渡した。
その後もずっと見ていたけど彼は誰にも声をかけず、マスターと飲んでいた。
声をかけたのは衝動。
でもあの甘い甘い笑い方を僕にはしてくれなかった。
餌だってくれないし、遊んでもくれなかった。
その時の自分にしては随分と長居をした。
でも彼は一度だって抱いてくれない。
覚えていてほしいと残した写真立ても捨てたのではないだろうか。
ひっそりと買いに行って、あんなに悩んだのに。
悲しくなって店に行き、彼が来ないかと思えば連れがいて。
僕が知らない味のキスをした。
もうどうしようもなくなって。
意地汚い野良猫のように彼に縋った。
相も変わらず冷たい彼は猫はいらないと言う。
あぁ、もう死んでしまおうかと思ったら恋人もいないと言う。
どっちになりたいかなんてずるい言葉を僕に向かって言う。
だからその日、意地汚い野良猫は欲深い人間になったのだ。



恋人になって結構長いがマコトさんとの生活も相変わらずだ。
相変わらず僕はマコトさんの家に住み、朝から中途半端な性行為をして自分でおさめている。
その姿を思うだけで楽しいとマコトさんは言う。
見掛けによらず変態なのだ。
恋人と長続きしない理由は別にあって、他人に興味がないらしい。
だから僕だけが興味の対象なんだと言われると嬉しくて仕方がない。
ある日、突然と言っていいほどにちゃんと話をしようと僕の素性を明かした。
高学歴でいい職の人なので呆れるかと思えば気にしてどうするんだと返された。
禁煙も再開し、煙草の代わりにコーヒーの味がするキスを返された。

「あれ、じゃぁ今いくつなの?」

僕の身体を這っている腕が止まる。

「・・・25」
「そうなると猫になって6、7年はうろついてたの?嘘でしょ?」
「・・・・・今年、20になった」
「ちょっと区役所に行こう。駄目だ、信じられない」

焦っているマコトさんになんと声をかければいいのやら。
未成年が飲酒しているなんて当たり前だし、身分証がない僕があの店に入れたのは人の背に隠れていたからだ。
ふらりとした生活をしていても友人ぐらいはいる。
しばらく部屋をうろついていたら頭が冷えたのかまた元のソファーに戻ってきた。

「あぁ・・・私は10以上も下の子になんてことを・・・!」
「今更過ぎるでしょう」
「少なくとも成人していると」
「もうしたじゃない」
「そう言えば誕生日も祝ってないじゃないか」
「あれ・・・祝うつもりだったの?」
「もちろんだ」

マコトさんは重いため息を吐いた。

「だいたい誕生日だって、なんで言わないんだ」
「自己申告するものじゃないでしょ・・・」
「・・・・・しないのか?」

目を見開いて僕を見た。

「しないよ?」
「でも私が付き合った人は今日誕生日だって、自己申告を・・・」
「・・・ソレ、稀もいいところだよ」

これだから恋人と長続きしない人って。

「何がほしい?」
「何も要らないよ」
「そうは言ってもだな・・・」
「いらないったら。僕は住む家もあって、ご飯も食べれて幸せだもの」
「ソレじゃ足りてないだろう?」
「マコトさんもいる」
「そう、いい子」

マコトさんは子供のように笑ってまた苦いキスをした。

「実家はどこなの?」
「・・・どうして?」
「なんでも」
「ちょっと離れてる。電車で2時間ぐらい」
「そうか。出掛ける準備をして」
「どうして?」
「なんでも」
「どこか行くの?」
「うん」

マコトさんから離れて服を着替えに寝室へ行く。
徐々に増える自分の物に満足なのかマコトさんはやたらに服も靴も買ってくれる。
玄関先には自分の靴は必ず出していないと嫌だと言われるぐらいには愛されている。
着替えてリビングに戻ればマコトさんがスーツを着ていた。
自分は外に出る用のロンTにジーンズ。

「僕もスーツの方が良い?」

マコトさんの社内パーティーにも行った事があるが僕はひどく場違いだった。
でも連れて行った意味は分かっている。
あの時の連れが歪んだ顔で僕を見たからだ。
諦めの悪い彼への当てつけ、なんて意地が悪い人。
それでも特別だと甘やかされたあの日ほど気分が良かった日もない。
きっと僕も歪んでいる。

「いいよ。そのままで」
「車で行くの?地図いる?」
「ナビに入力してくれればそれでいいんだ」

めずらしい。
カーナビよりも旅行雑誌や地図を調べる方を好むのに。
車に乗ってシートベルトを締めてカーナビを起動させる。
そしてマコトさんは意地悪に笑ったのだ。

「実家、住所は覚えてるよね?」

有無を言わさない目。

「なんで、行くの」
「タケルが20だと分かった今、そんな若い子を預かってられないよ」
「す・・・す、捨てるの?」

カーナビに伸ばしていた腕をマコトさんの腕に伸ばす。
そんな、あっさりと終わるだけの時間ではなかったはずだ。
でも、この人はやりかねなかった。

「違うよ」
「じゃぁ、どうして、」
「あぁ・・・泣かないで。私は言葉が足りないんだ」
「う、うん?」
「黙って、預かっているわけにはいかないんだよ」

マコトさんは眉を下げて僕の目じりをハンカチで撫でる。

「ちゃんと説明をして、それで私はタケルをもらうんだよ」

その笑った顔にほだされて、古い記憶をたどって自分の実家の住所を入力した。



家の近くまで来た時にはもう心臓が張り裂けるかと思った。
近くのパーキングに車を止めて、マコトさんは手土産の菓子折を持つと僕の家に向かって歩き出す。

「心臓が飛び出そうだ・・・」
「僕も・・・」

じっとりと汗をかいた手を繋いで家まで来る。
表札も外観も変わっていない。
目の前のインターフォンを押せばいいのに、いつまでたっても押せない。
マコトさんが大きく息を吐いてからインターフォンを押した。

『・・・はい』

母親の声だった。
マコトさんが自己紹介と、それから僕のことを話してたらブツリと音が切れた。
やっぱり、と思って帰ろうと言おうとしたら玄関のドアが勢いよく開いた。
何年かぶりに見る母親がいて、思わず涙が滲んだ。
父親まで見えた時にはもう押さえられなくて親の元へ走って行った。
今までどこにいたとか、ちゃんと生活してるのかとか、父親らしいことを聞く父親。
それとは違ってただ泣いている母親。
僕は玄関先でどうしたものかと眉を下げているマコトさんを呼んだ。

「うちの両親。この人はマコトさん」
「はじめまして。澤田と申します」
「あぁ、あの何もお構いもせず申し訳ありません」
「いえ、大丈夫ですよ。こちら、つまらないものにはなりますが、」
「まぁ・・・よろしかったのに・・・」
「お口に合えばよろしいのですが・・・」

大人な会話を繰り広げる両親とマコトさん。
そのまま久しぶりの家にあがり、客間へ通された。
父親はマコトさんに深々と頭を下げて礼を言い、僕の事を詫びる。
マコトさんはたじたじしていて、こんな顔は二度と見れないだろうなぁなんて思っていた。
お茶を出しに来た母親に呼ばれて僕はそこから退室する。

「ねぇ、タケル」
「うん?」
「あの人は、その・・・警察の人?」
「えっ、違うけど・・・」
「えっ、じゃぁ、どこの人?弁護士さん?」
「いや、そういうのじゃなくて、その」

青ざめている母親は俺が何かしでかしたと思っているんだろう。

「こ、恋人って、いうか、その、」
「ちょっと、なんで早く言わないの!」
「だ、だって、なんか、恥ずかしいっていうか」
「その、タケルの、そういうの、お父さんは、まだ許してなくて」

そこまで聞いて今度は僕が青ざめる。
客間を母親と並んでひっそりと覗けば仕事とか身の上話をしていた。
入るに入れないままそこでマコトさんを見守る。

「し、失礼ですが、うちの息子とはどのような関係で?」
「現在、お付き合いさせていただいております」

うっとりするほどの笑顔でマコトさんが言いきった。
母親もうっとりしているのを見ると僕は母親に似たらしい。
そんなマコトさんとは反対にどんどん顔を曇らせて行く父親。

「出て行け!」

父親はマコトさんの顔に熱いお茶をかけた。
マコトさんの高いスーツはどろどろ。
まるでドラマのワンシーンを見ているような気分だ。
父親は怒って部屋を飛び出し、母親は焦ってタオルを取りに行った。

「水も滴るいい男だね」
「・・・だろう?」

この後、マコトさんは再戦を堅く誓った。




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