>> 目指す未来はもう見えているだろう






はたけカカシは考えていた。数学というものは答えがある程度一つに纏まるから好きだが、現実はどうだろうか、と。最善の選択肢を選ぶまでに時間がかかりすぎて、結局逃してしまうなんてことが多いのが、理想と現実の差なのだろう。それは、最近になって彼が学んだことだ。




彼の教え子であるうずまきナルトは、一応学内では所謂落ちこぼれ、ということになっている。彼女はカカシの先生である波風ミナトの一人娘である。近隣に住んでいることもあって、彼女が唯の馬鹿でないことは承知していた。けれどまぁ、いっそ芸術的なまでに通知表が欠点ギリギリである訳で、このままでは落第もしかねないと教師陣の全会一致で決定したのが放課後補習である。




「…未来を、って簡単に言うけどねぇ…」




つい先日のカカシの誕生日にナルトは自分の未来をくれてやる、と言ったのだ。彼女はようやく女にしては遅い成長期に入ったのか、スラリと背丈が伸び、手足もそれに見合うほどに長くなった。生まれつきの金色の髪はサラサラと風に揺れ、両親の良い部分ばかりを継いだ容姿は最早学内一であるとの誉れも高い。青く澄んだ目も相俟って黙してさえいればフランス人形の様だとまで言われているのだ。きっと大人になれば多くの男に求婚されるに違いないのに、こんなに早い段階で自分の嫁になると決めてしまうのはよくないと、カカシはナルトがさらりと簡単に言ってくれたことを真剣に考え込んでいた。カカシももう三十路である訳だし、結婚を考えなければならない年齢である。カカシは、悩んでいた。それでも補習は、カカシとナルトの事情など考えることなく回ってくるのだ。




「…で、センセ、答えは出たの」
「…オマエなぁ…、オレはもう三十で、オマエは前途有望な十代なの。今すぐ決めなくてもいいでしょうよ。簡単なことじゃないんだから」
「うじうじ言ってんな!オレはオマエ以外に自分を見せる気はねーし、第一オマエ、自分の面倒ちゃんと見てくれるような女がいると思うか?」




カカシは、所謂片付けの苦手な男である。職員室の机は辛うじて綺麗にはしているが、自分の住むマンションは足の踏み場もない程度に汚い。それをナルトは知っていた。しかし、他の女は彼の私生活など何一つとして知らないし、カカシに完璧を求めている彼女達からすれば、一瞬で熱が冷め、幻滅の対象となる程のものである。カカシとてそれは理解していたから、こうして今、ナルトに言い返す言葉が見付からないでいる。




「ほら、言い返せないだろ。だから結婚…」
「いや、それとこれとは無関係でしょ。ていうか何、オマエ結婚願望そんなに強かったっけ」
「…いや、女だし?オマエ、捕まえとかないと逃げそうだし」
「逃げるって何よ」
「だってさ、オマエ以前にオレの方が結婚出来ねーじゃん?だから他の女に取られる前にキープしといた方が賢いだろ」




カカシは言葉を失った。彼女が結婚したいと思っていたことにも驚いたが、そこそこ真面目に考えていたことにも面食らった。カカシはペラリと手持ちの参考書を捲ってみるも、やはり数式が存在するだけで、欲しい情報など載ってはいない。目をかけて育てていた子供の思わぬ成長に、カカシは嘆息した。




「…で、オマエは、オレでいい訳?」
「……オマエがいいなら」
「そうじゃなくて。結婚したいか、したくないか。オレがいいの?それとも妥協した結果がオレ?」




(…我ながら姑息な手だ)




「っオレは!…オマエが、いい」
「……じゃあ、するか、結婚」
「………は?」
「いや、オマエが卒業してからよ?」
「…ふは、何、そのプロポーズ」
「あー…、まぁいいじゃない。そもそもオレがプロポーズされたようなもんだった訳だし」
「うっわ、ぐだぐたー。ヘタレだもんなーオマエ」




カカシはその言葉に言い返すことはしなかった。ナルトの言うことは的を射ている。何よりナルトの目から涙が溢れたことの他がカカシとしては心配で、それを拭おうと手を伸ばせば逆にナルトに手を取られる。何だか見たことのある光景にカカシは内心首を傾げた。意図を図りかねたカカシの困惑した表情を捉えて、ナルトは唇を舐める。




「…オマエの未来をオレに頂戴」
「……ああ、やるよ」




数学は好きだ。そこには答えがちゃんとある。けれど例え答えの無い数式だって解いてみせるから、なぁ、君のその複雑に絡まった想いをオレにくれないか。




 




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