>> 暑い夏の夜は 前






七班の任務で赴いた国で祭りがあった。小さな神社の夏祭りらしい。それをサクラはもの凄く喜んだし、サスケも何だかんだで楽しみらしい。やはり子供は子供だ。一方カカシはやはり面倒そうな顔をしている。この男はこういうことが嫌いだ。忍が喧騒の中にいるのは自らの里あるいは戦だけだと声を大にして言うのだ。多分、出来た忍なのだろう。子供には散々馬鹿にされているが、何だかんだで自分には厳しい戒律を課している男だ。カカシはちらりとこちらを見てから、オマエは嫌じゃないの、と口の動きだけで言った。オレだって過ぎた喧騒は好きじゃないけれど、こうして七班という“家族”の中で思い出を共有するのは悪いことではないと思う。そう伝えると、カカシはそう、と言っただけでもう後は何も言わなかった。そういう優しさが、カカシを嫌いになれない理由でもある。




「…オイカカシ、本当に行くのか」
「行きたくないってんならやめるけど?」
「ダメだってば!」
「だめよ!」
「…ま、だろうね。そういうサスケも行きたいんだろう?」
「…こんなウスラトンカチと一緒にすんな」
「何だとーっ!?」




森に騒々しい声が響きザワリと木々が揺れる。祭りのある国は中立国だった。もう国境は渡ったから、この辺りは比較的安全だと言える。完全に安全だとまでは言えないが、中立国で波風を立てるのは得策じゃない。




「ねぇねぇ花火見れるかなぁ!?」
「アンタはどっちかと言えば食い気でしょ、ナルト?」
「…サクラちゃん、ひどいってばよ…」
「あ、見えたよ。あれが紹介してもらった呉服屋さんでしょ」




依頼主の知人だという呉服屋を紹介してもらい浴衣を用意してもらった。初老の夫婦が経営している呉服屋はとても金持ちの依頼主が贔屓にしているとは思えないほど小さなものだったが、中に足を踏み入れると中々品のある品揃えをしていた。大した目利きでもないオレですらそう思ったのだから目の肥えた人間には堪らないに違いない。とはいえ着る物になど大して頓着しないオレ達にはほとんど縁は無いのだけれど、唯一の女の子であるサクラは大層ご満悦の様子だ。夕刻になるまで他愛ない話をして、奥さんに見立ててもらった浴衣を着付けしてもらってオレ達はいよいよ祭りに行くことになった。




「…言っとくけど、はしゃぐのも大概にしなさいよ。はぐれたら置いて行くからね」
「わかってるってばよ!あ、かき氷!ね、センセ、あれ買って!」
「…ナルト、オマエね…」
「あ、サスケ君!あのお化け屋敷二人で入らない!?」
「ちょ、サクラ?あ、勝手に行くなって言ったでしょーが!」
「…あーあ、行っちまった。カカシ、オマエ本当に隊長としてどうかと思うぞ。お子様の躾も出来ないのか」
「…ナルト、それ言わないで。ちょっと傷付く」




サクラはサスケを引き摺ってお化け屋敷に消えた。少しばかりサスケが憐れだと思ったが、子供二人で楽しむなんてことの少ないサスケのことだからいい機会だとも思う。金も少しばかり渡しているからある程度楽しめるだろう。問題なのはこっちに残ったカカシの方で、コイツが厄介なのだ。藍色の渋い浴衣を纏うこの男はサクラとサスケが消えた後直ぐに口元を覆っていた布を取り、その整った顔を晒していた。通行人の憧憬と嫉妬の眼差しが痛い。こんなに人通りの多い所でこの男が口布を外したのは初めてのことで、どうしたんだと尋ねたら折角だからさ、というよく分からない返答があった。この男がまともな返事をすること自体が珍しいことだから、今更気にすることでもないのだが。カランコロンと下駄の音を響かせて屋台の並ぶ通りを二人並んで歩き喧騒から離れた神社を目指す。





 




PageTop

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -