>> ある一つの告白方法





珍しくハイテンションでお送りしております
少々ギャグ風味ですのでシリアス目当てのお人は出来ればご遠慮していただきたく…(笑)






今思えば、この出会いは鮮烈だった。何がって、告白の方法が、だ。




あれはそう、晴れた日の午後だった。無気力不真面目高校生黒羽快斗はその日だって面倒な現文の授業をサボタージュしていて、屋上で昼寝を堪能していた。春に近い陽気は眠気を誘うには十分で、誘われるままに太陽を背に眠った。ここまではよくある黒羽快斗の日常だ。誰もこんなことでは驚かない。




「っ黒羽!いるだろ!?ちょっと出て来い!」
「…何だよ、慌てて」
「これを見てみろ!慌てて当然だろうが!」




級友の手には矢文。今は戦国時代じゃあないんですよ。歴とした情報世界、ほんの数秒で世界中どことだって繋がることの出来るハイテク社会なんですよ。それが何だ。何故矢文なんだ。カサカサと乾いた音を立ててそれを開くと、墨で書かれた綺麗な文字。中々に達筆じゃあないか。




「た、たのもう…?」
「そうだ!これはオマエへの挑戦に他ならない!」
「いや、早々に決めつけるのもなあ」
「いいや、そうに違いない!」




鼻息荒い級友と少し距離をおいて、真剣に考えてみる。恨まれるようなことなど何一つとしてない。いや、スカートは行く先々で捲っているが、別にわざわざこんな面倒なことをするほど恨まれるようなことはやらかしていないはずだ。そもそも何故矢文なんだ。結局その問に行き着くわけなんだが、さっぱり分からない。依然として不明だ。不毛な問から逃れるために空を見上げれば、スカイブルーが妙に派手に見えた。空の色はこんなにも鮮やかだっただろうか。




「おーい、黒羽!例の道場破りが来たぞ!」
「いっ!?」




校門に寄り掛かる黒い影。何となくブルーがかったあのブレザーは、帝丹高校のものだろうか。益々意味が分からない。他校生に何故狙われねばならんのだ。




「おら黒羽、行けよ。どうにかしてこい馬鹿めが」
「え、ちょっ、それは無体ってもんだろ!」
「相手がオマエをご指名なんだぞ。行くのが道義ってもんだろうが」
「…それは生贄っていうんじゃないですか」
「まあ、そうとも言う」




早いとこ行けよ、と無体な級友に背を蹴られ屋上を後にした実に可哀そうな黒羽快斗少年が校庭に行く頃にはもう、待ちくたびれたといった様な名探偵こと工藤新一さんが立っていたのである。青い目を久し振りに見たなぁなんて余計なことを思う間にも工藤新一さんはこちらを見ているわけで、うっかり名探偵…?なんて呟いてしまった時には冷や汗が出た。握り締めた拳は汗ばんでいる。




「ね、ねぇ、もしかして工藤新一さん、だよね?」
「…、ああ」
「あの矢文ってやっぱり工藤さんの?」
「ああ、オレのだ。典型的な方が実りやすいって話だったからな」




て、典型的?あれが、名探偵の内では典型的に分類されるのか。寧ろ古典的と言った方がしっくりくる。話題が独り善がりなおかげで全く行き先が見えない。




「…あ、あのオレに何かご用で…?」
「好きだ」
「…は?」
「だから、オレはオマエが好きなんだと言ってる」
「ええっ!?」




頭がショートする。今この探偵は何と言った?好き?名探偵は、怪盗の黒羽快斗が好き?意味が分からない。まずオレは男で、名探偵も男で、なおかつオレは名探偵に追われる立場だ。何故好きになるのかが分からない。寧ろ嫌悪の類いだったんじゃないのか?オレの思考は無限ループ。収束する兆しも見えない。工藤新一は続ける。




「初めて見た時から好きだったんだ。気付いたらもう遅かった。だから気持ちだけは伝えてすっきりしようかと思って」
「……」
「伝えたから満足。じゃあな、黒羽」
「え、待ってよ!」




どうしてだかこのまま帰したくなかった。そもそも最初から変ではあったのだ。男から告白されても、嫌悪感が一つとしてないことが。いや、これが白馬だったらおそらく、いや、絶対に気色が悪いと思うだろう。つまりこれは、名探偵だから…?とにかくオレは名探偵を勢いで引き留めてしまった。何か言わなければ。何か発しなければ。名探偵は怪訝そうにオレを見ている。とても綺麗な目だと思った。




「…ね、このままお茶しに行かない?」
「え、オマエ授業は?」
「そんなもんいつもサボってるから。屋上で寝てるよりも楽しそうだ」




名探偵工藤新一は、空の青よりも鮮やかに、爽やかに笑った。黒羽快斗も、つられて爽やかに笑った。古典的、いや、典型的な矢文という告白は、このようにして成立し、実ったのである。




 


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