>> 単純にして複雑





オレは、淡白な人間らしい。どうやらそれにも例外があるようだけれど。オレは、淡白らしい。




この前、オマエは淡白だよな、と言われた。成る程、オレは淡白な人間らしい。大した反論も出来ないあたり、そいつの言うようにオレは淡白なのだろう。別に、生活には不便しないから、改善する必要もない。そう言ってやれば、そんな所が淡白だと言われる所以なのだと言った。生まれ持った性分なのだからしょうがない。文句ならば名も知らぬような遠い先祖にでも言ってくれればいい。それが不可能だということは誰にだって理解することが出来るが。




残念なことに淡白で執着というものがあまりないオレは、この生にすら大した執着がないらしく、これだから怪盗だなんていつ死ぬともしれない職業をしている。それはそれで便利だ。死への恐怖も大してない。無茶が出来るし、何より後腐れのない生活が送れる。味気ないな、と探偵が言ったが、今までのほんの17年の人生で味気があったことなどないわけだから味気のある人生などオレには知る由もない。知る必要すら感じない。ああ、オレは淡白なのだろう。否定などしやしない。




「…そういえばオメー、昨日してたピアスどうしたんだよ?赤くなかったか」
「よく見てんなー、流石は名探偵。あれねー、どっか捨てたかも」
「…は?」
「昨日のって貰いもんだったしさ、飽きたから」




それに、工藤の色だしね、今のピアス。そんじょそこらの理由じゃあ変えないからそこら辺は安心しててよ。青色の石の付いたピアスを弄びながらそう言えば、安心って何だ!と工藤が照れ隠しに叫ぶ。赤くなった耳に愛しさを覚えるのは珍しくこの男に執着しているからで、これはもう、5年くらい前の汚れた父の形見以来の執着だった。




オレは現在進行形で工藤とお付き合いをしていて、オレは工藤のことが好きだ。それ故にこの男に執着する。他の人間に目を向けられているのは嫌だし、何よりオレは工藤を人目に晒したくもないのだ。それでもオレがそうしないのは工藤に嫌われてしまうのが嫌だからであり、そしてこの執着に畏怖でも覚えられては困るからである。




「…オレ、オメーのそういうとこ苦手だ」
「…どういうとこ?」
「…執着のない、一見しただけじゃあ分からない無機質で冷淡なところ」
「…的確だな」




きっぱりと工藤はそう言い放ったが、それでも、と言い募った。




「…それでも、オレは黒羽がその、あの、…好き、だし?別にオレはオメーがそれだけが全ての男じゃないってちゃんと知ってる」
「…何かそれ、面と向かって言われると照れるな」
「!う、うるさい、黙れ」




再び耳まで赤くなった工藤に口付ければ、いやだと緩く首を振る。それにクスリと笑えば恨めし気な目をこちらに向けて、オレの胸にグリグリと顔を押しつけた。この瞬間を酷く幸せだと思う。この時間が続くのならば永遠ですら欲してしまう。欲してはならぬというのに。頭を撫でれば目を閉じて大人しく撫でられている工藤に、所詮愛という感情を抱いている。愛という名で丸め込むことが出来るのかは謎だが、確かにオレは工藤を愛している。言葉にすることなど滅多にないが、工藤も薄々と気付いてはいるのだろう。音の無い言葉でさえきちんと正確に理解してくれる、そんな工藤がオレは好きだった。




「…工藤、オレ、執着なら持ってるよ」
「…何だよ、急に」
「…オレ、オマエに執着してるよ。どうしようもないくらいに、オレはオマエが好きなんだ。捨てたりなんかしないし、捨てさせもしないよ」




工藤は少し間を置いて、黒羽って馬鹿だよな、と言った。何が、と言う前に、工藤は愛の科白を吐いたオレの唇を塞ぐ。熱を持っていた。狂おしいほどにその唇は熱を持っていた。愛でも冷淡な言葉でさえも易く出てくるオレの冷たい唇に、熱力学に忠実に工藤の情熱的な温もりが伝染する。工藤は言った。




「…オレがオマエを捨てるわけがないだろう。折角苦労して手に入れたというのに」
「…そうか」
「ああそうだ。オレはオマエを捨てたりはしない」




淡白だ、と言われたけれど否定出来る材料など持ち合わせていないから、きっとオレは淡白なんだろう。それには工藤という例外があるのだけれど。生活に困らないのならば、工藤以外には、もう何もいらない。そんなオレを淡白だと言うのならば、何と人間というのは複雑な構造をしているのだろう。つくづく、自分は単純でよかったと、そう思った。




 


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