「いやー、あの辻くんに彼女とは。感慨深いねぇ」
「本当それ。辻ちゃんこの調子じゃ一生彼女なんてできないか変な女の子に騙されるんだと思ってたもん」

ツンツンと揶揄うようにして人差し指で辻を突く氷見と犬飼に本人は頬を赤く染めて照れたように笑う。ナマエと二宮は射手トリガーの練習中だ。何を考えたのかナマエに射手トリガーを教えると言い出した二宮に意外にも辻は寛容さを見せていた。今までだったらナマエに教えるという行為を譲らなかったというのに思いが通じてから心に余裕ができたようだ。

「もうミョウジさんは俺のだし、俺もミョウジさんのものだから」

幸せそうにはにかんでいるが言っていることは束縛的である。付き合ってから別れるまでのスパンが短い犬飼はもちろん、まだ夢みがちな乙女である氷見でさえ少々引いていた。しかし大切なチームメイトと、可愛い後輩が幸せならそれでいい。

「それで?もうデートはしたの?」
「で、デート・・・!」

ソワソワと何か話したそうに口を開いては閉じてうろうろと視線を彷徨わせる辻の口を開かせるため、誘導するような口調で辻の言葉を誘った。

「どうした?もしかして恥ずかしくて誘えない、とか?」
「違います」

ピシャリと言ってみせた辻に意外だなぁと瞳を丸くする。

「もしかして予定が合わないとか?」

学年が違うとタイミング合わないことも多いよね、と尋ねた氷見の言葉も否定される。辻はナマエと出かけたいようだしいよいよ予想がつかなくなってきた二人はじっと辻の言葉を待つ。

「ミョウジさんが・・・デートしてくれないんです」
「ナマエちゃんが?」

まさか二人ともナマエに問題があるとは思うまい。辻のように二人になることを極端に恥ずかしがったりはしないし二人で歩いているところを見られたくないというわけでもなさそうだ。二人は辻の言葉の続きを促す。

「外に出るのが嫌いってわけじゃないよね?この前みんなで動物園行ったし」
「・・・あれも実は俺は二人で行くつもりで誘ったんです。でもミョウジさんが二宮さんに都合を聞いちゃうから・・・・」

二宮が怖くて断れなかったのか、みんなで動物園だとはしゃぐナマエが可愛くて断れなかったのか。どちらにしても可哀想な辻である。

「二宮さんもナマエちゃんに誘われて嬉しかったんだろうね・・・」

表情をあまり変えず、しかし恐ろしいほどのスピードで全員の予定を合わせ、車を出した二宮は動物はさほど好きではないらしく少し離れた位置から保護者のようについてきていた。いや、あれは完全に保護者だった。もしくは引率の先生。

「なら他のところ誘ってみなよ」
「誘いました。みんなで水族館?楽しそうです!だそうです」
「・・・遠回しに二人で行くこと拒否られてない?」
「シッ!そんなこと言わない!・・・ほら辻くんが落ち込んだ!」
「良いよ。気付いてるから・・・」

『ひゃみちゃん、どうにかならないの?』
『そんなことを言われても・・・』

じめじめとキノコでも生えてきそうなほど落ち込む辻をみて犬飼は氷見と目配せをする。

「辻くん、それとなく聞いてみようか?」
「お願いします」

即答する辻に氷見は苦笑する。
ブブ、と携帯が震える音がすると辻は間髪を容れずそれに飛びつく。

「ミョウジさんと二宮さんそろそろ帰ってくるって」
「二宮隊の訓練室で訓練すれば良いのになんでわざわざ太刀川隊まで行ったんだろ?」
「そりゃあ、師匠である出水くんに自慢するためでしょ。俺の弟子だって」
「ミョウジさんは俺の弟子です!」
「結局そこは変わってないんだね・・・」

犬飼は呆れたように辻の携帯に目をやる。
メッセージアプリでナマエの名前が一番初めに来ているのは、通知が来たのが今だからという理由ではない。ピン留めされているその名前を見て、そういえば彼女は彼氏である辻をピン留めしていなかったっけ、と思い出す。
意外とナマエちゃんの方が淡白なのかなあ。


「師匠!助けてください!二宮さんってば酷いんです」
「うるせぇ。事実を言ったまでだ」
「私だって日々成長してるんですからね!」
「成長?」
「ほら!どこが?みたいな顔してる!師匠!」
「ぁ、ミョウジさん、二宮さんは・・・そうだね。二宮さんはミョウジさんに意地悪だね」
「あ!こら辻くん。ナマエちゃんと二宮さんが仲良くなったからって意地悪しない!」

当たり前のように二宮隊の作戦室に帰ってきたナマエに辻との仲違いがまだ記憶に新しい氷見はほっと息をつく。しかしのほほんと落ち着いている場合ではなかった。


「今度のボーリングで目にものを見せてやるんですから!」
「そうか」

わあわあと言い合っている・・・正確には二宮に言い募っているナマエの言葉に二宮隊の作戦室には衝撃が走る。

「ナマエちゃんちょっと聞いて良いかなぁ」
「氷見先輩!なんですか?」
「ボーリングって・・・・二宮さんと二人で?」
「はい!」

確かに二宮さんの手足は長くてボーリングうまそうだけど、私だってできるはずです!と意気込むナマエは固まっている辻に目もくれない。

「ちょ、ちょっと待ってナマエちゃん!辻ちゃんに許可もらったの?」
「師匠の許可?必要なんですか?」

犬飼は一応恋人がいる時、他の女の子と遊ぶ場合は許可を取る。自分は別にいらないけれど穏便に済ませるためである。しかし辻は違うだろう。許可どころか、そもそも自分以外の男と遊ぶのは気に食わないのではないか。

「異性と二人きりで遊ぶなら一応恋人の許可は必要じゃない?」
「恋人?誰と誰ですか?」

思いもよらないナマエの言葉に3人は目を剥いた。静かな作戦室にナマエと二宮の言い合う声が響いた。




[*prev] [next#]
TOP

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -