「やー、ナマエ。元気?」
「こんにちは迅さん!元気ですよ」

ナマエは自分お尻を撫で上げた手を払いつつ元気に答えた。特に気になるわけではないが、触らせたままにしておく痴女にはなりたくなかった。
相変わらずぼんち揚を食べている迅はナマエがこの時間にここを通ることを知っていたようだった。何か視えたのだろうか。自販機から少し離れた人影の少ないベンチに二人で座る。他の人であれば尻を触られた直後に二人きりになったりはしなかっただろうが、他でもない迅さんだから。こういえば彼からは買い被り過ぎだとでも言われるだろうから余計なことは言わないでおく。

「はい」

迅が差し出したのはミルクティで何も言わなくてもわかるなんて二宮隊みたいだと一瞬ナマエは驚いたが、何通りか未来を視たのかもしれないと納得した。彼は日常生活のちょっとしたことでごく自然にサイドエフェクトを使っている。ただでさえ視えるということは辛いことも多いだろうに。未来が視えるという状況に慣れきっているのかもしれない。だからと言って全て大丈夫になるわけではない。親しい人が傷つく未来が視えた時は辛いだろうし、少数の親しい人間と、多数の知らないこの街の人間を天秤にかけたことだってあるだろう。慣れたから傷つかないなんてことは絶対にない。それでも彼はサイドエフェクトありきの人生しか送れない。未来の視えない迅悠一なんて想像つかないけれど、いつか彼は壊れてしまうのではないかと、そう思ってしまう。

甘ったるいミルクティを口に含んで、舌で転がす。ココアは二宮隊の作戦室で、ミルクティは外で。特にそう決めたわけではないのに、ナマエはそれが習慣になっていた。おかげで太ってきたんだけど・・・とペットボトルに巻きついたビニールに爪を引っ掛けてペリペリと剥がしていく。特に分別する必要はない。ただの気分だった。肉もこんな風に剥がれればいいのに、と透明になったペットボトルを眺めると迅はふ、と笑った。

「・・・・私まだ何も言ってないですからね」
「ごめんごめん」

盗み視るなんてひどいです、と頬を膨らませれば人差し指で突かれてぷすりと空気が抜けていく。

「それで、本題は何ですか?」
「ナマエに会いたかっただけって言っても信じないよね?」
「私そんなにバカじゃないですよ」

ミルクティまで用意して私の通る場所で待ち伏せてたんだから。
すぐ近くにあるゴミ箱を眺めながら入りますか?とナマエが迅に問えば入るよ、と言われたため、行儀が悪いと思いながらもペットボトルを投げ入れた。ビニールは後で捨てることにしよう。

「ナマエさ、トリガー変えた方がいいよ」
「え・・・?」

緑川に、風間にだって言われた。その度にナマエは、使いこなせないよ、なんて反論してきたが、迅に言われるのとではその言葉の重みが違った。

「別に孤月使うなって言ってるわけではないよ。最近調子良いみたいだし」

師匠が良いんだね、なんて褒められれば勝手に頬は緩んでいく。

「・・・迅さんが言うからには何か事情があるんですね」

迅はそれには答えず食べ終わったぼんち揚の袋をぐしゃぐしゃに丸めた。ナマエはそれを取り上げて少し離れたところにあるゴミ箱に捨てにいく。どうせ迅さんはまたぼんち揚食べてゴミ出すんだろうけど。振り返ってみればどこから出したのかわからない新しいぼんち揚を開けていた。

「気が利くねぇ」
「視えてましたよね」
「あはは」
「それで?何に変えたら良いんですか?」

なんとなく、想像はついていた。

「スコーピオン。絶対にグラスホッパーだけはつけて」













あの後いくつかの質問をして、本命はスコーピオンじゃなくてグラスホッパーだということを聞き出した。だったら孤月とグラスホッパーでも良いではないか、と聞いたのだが、ナマエは孤月とグラスホッパーは合わないよ、と言われた。

「なるべく師匠と編成一緒が良いんでしょ」

図星だった。メインに孤月、施空、シールド。サブにシールド、バッグワーム。
弟子入りする前まではアステロイドを入れていたのに、師匠の編成を見て消した。今のトリガーをセットする位置まで揃えて、最初は慣れなかったけれど、最近やっと慣れてきたところだった。

「ナマエはどちらかというとトリオン量多いんだから師匠と一緒にしたらダメだよ。鼓月を完全にやめろとは言わないから自分に合うトリガーをセットして」

恥ずかしかった。暗に依存していると言われて。

「スコーピオンだったらもう少し早くB級に上がれてたよ」
「・・・・」

俯いて黙り込んだ。胸がムカムカする。甘ったるいミルクティを飲んだせいかもしれない。


ムキになった。孤月にグラスホッパーを合わせてみた。言われた通りダメだった。孤月が重くて空中で姿勢を立て直せない。何度も落下した。迅にはここも視えていたのだろう。





「ぁ、ミョウジさ、ん、ぇと、最近、稽古、してないけど、だい、じょうぶ?」
「し、師匠!」

びくりと肩を揺らした。トリガーを変えてからというもの師匠に合わせる顔がなくて、二宮隊の隊室には行っていなかった。言わなければ、と思っているのに言えなかった。

「ひゃ、ひゃみさんもミョウジさんに来て欲しい、て」
「あ、えっと・・・」
「お、お菓子もミョウジさんの分まで用意してある、から」

だから、来て。
断れるはずがなかった。

「ちょっと事情があってしばらく師匠と稽古できないんですけど・・・・会いに行ってもいいですか?」
「うぇ!?ぅ、ぅん」

こくこくと頬を真っ赤に染め上げて頷く師匠に緩く微笑んだ。




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