「明日からナマエと恵には仙台に行ってもらいまーす」

突然現れた先生にももう驚くことは無くなってきたがその話の内容に思わず動きを止めると横から振り払われた。そのまま勢いよく横にいた伏黒くんにぶつかって倒れ込む。

「・・・わざとですよね」
「バレた?」

五条先生のせいだとはいえ実践で集中力を切らしたら死んでいた。文句は言えないな、と思いながら素早く立ち上がって伏黒くんに手を貸した。

「ごめんね」
「別に」

座り込んだ男の子を持ち上げることができるほどには体力も力もついてきた。自分の成長を嬉しく思いながら五条先生に聞く。

「どんな任務ですか?」
「宿儺の指の回収だよ」

それを聞いた伏黒くんは警戒の色を顕にする。

「それ俺達で大丈夫ですよね」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと封印して保管してあるよ!」

本当にちゃんと保管できているのか疑わしいテンションで言うものだからこっちとしてはたまったものではない。

「はい。制服。流石にそれでいくわけにはいかないしね」

渡されたのはカスタムされた高専の制服とは違い、ごくごく普通の学校の制服だった。いいじゃんいいじゃん俺もきたーい、と横から口を挟むパンダ先輩だけど先輩普段から服自体を着てないじゃないですか。

「じゃーそろそろ特訓も終わりにしとくか。明日死なれても困るし」

真希先輩の温情でいつより早く終わった。帰っていく先輩に手を振って運動場の隅に置いていた学長のぬいぐるみを抱き上げる。

「お前また寝ないのか?」
「今日は寝るよ。倒れて伏黒くんに迷惑かけたくないしね。でもちょっとだけ走ってからにしようかなって思って」

本当のことだった。早く成長はしたいといえど伏黒くんに迷惑をかける様なことはしたくなかったし、呪符は十分に書いてあるから少し走って部屋に帰って準備をしたらすぐに眠るつもりだった。だけど夜中に出会った伏黒くんは信用しなかったらしい。一度は来たジャージをばさりと落とした。

「俺も付き合う」
「え!ちゃんとやめるって!」

無言で見つめてくる伏黒くんに白旗をあげたのはこちらだった。

「お前が寝ないとこっちが眠れなくなる」
「・・・スミマセン」

伏黒くんの睡眠を妨げたことは悪いとは思っている。ぐりぐりと足を回してから軽く伸びをする。いくら治療してもらえるとはいえ怪我はあまりしたくない。走り出すと伏黒くんはついてくるが、私にペースを合わせている様では彼にとっては何の特訓にもならないだろう。いくら体力がついてきたとはいえ、所詮まだ数ヶ月なのだから。

「先に行っていいよ」
「それじゃ意味ねぇだろ」

こっちは全力で走っているというのにため息を吐く余裕まであるようで少し腹立たしい。もちろんこちらは学長の呪骸を抱いて走っているからきついというのもあるだろうけど。走り終えて呼吸を整えるところまでじっと見つめられて複雑な気持ちになる。

「心配してくれるのは嬉しいけどそんなに信用できない?」
「・・・っ悪い。今のは無意識だった」

パッと視線を逸らした伏黒くんにそっか、と返して水を買うために自販機に向かった。ポケットに入れていた小銭入れから硬貨を数枚取り出すと二本お茶を買った。

「ごめんね。付き合わせちゃって」

そのうちの一本を渡すと素直に受け取ってもらえてほっとする。たくさんお世話になっているのにお茶一本さえも拒否されたら申し訳がなさすぎる。

「ちゃんと寝ろよ」

寮への分かれ道で念を押される。玉犬を出して欲しいなんて言ってないのにどうしてそんなに気にしてくれるのか分からなかったが、こくんと頷くと伏黒くんは疑わしげな顔をして手を持ち上げた。その手が玉犬をよぶ形になろうとした時、急いで伏黒くんの手を掴んだ。明日は任務がある。それも特級呪物の回収だ。封印されているとはいえ、何があるか分からない。無駄に呪力を消費させるわけにはいかなかった。

「大丈夫!ちゃんと寝るから。・・・寝る直前に布団に入った写真でも送ろうか?」

冗談のつもりで言った。伏黒くんがあまりにも私のことを気にしてくれるから。

「あぁ」

紺色の様な黒色のような暗い色味の形態を差し出される。それを見て、そういえば伏黒くんの連絡先も知らなかったな、と思い出す。

真希先輩に扱かれている時は壊れるといけないと思って呪骸とともに置いていた携帯を取り出すと伏黒くんを私の携帯に登録した。

「後で連絡するね」

伏黒くんは無言で頷くとふらふらと男子寮へ戻った。
あの調子で明日大丈夫かな、と心配になる。寝る直前に連絡するって言ったし後で連絡しよう。
ひとまずは特訓でかいた汗を流そうと着替えを持ってお風呂へ向かった。
結局ポカポカと気持ちが良くなってそのまま眠ってしまって伏黒くんへの連絡は忘れてしまった。




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