「お前最近寝てないだろ」

顔を合わせた瞬間にそんなことを言ってきた伏黒くんは不快そうな顔をした。失礼だな。

「玉犬を貸してくれたら寝れるんだけどなぁ」
「貸さねぇよ一人で寝てろ」

追求されたくなくて、冗談を言うとペチンと頭を叩かれた。

「ひどいよ伏黒くん!女の子の頭を叩くなんて!」
「加減しただろ」
「仲良いなお前ら」
「しゃけしゃけ」

真希先輩の呆れたような声に同意する狗巻先輩。そろそろ始めるぞ、と真希先輩に言われれえば喜んで頷いた。

「ナマエは変わってるよなー。毎回投げ飛ばされるのに真希に懐いてんの」
「お前ら男どもが不甲斐ないからだろ」

腕を伸ばしたり膝を曲げたり、準備運動をしながら話す。こう言うとき呪術高専に来てよかったと思う。普通の学校だったら話しながらしていたら怒られると思うから。訓練は生徒の自主性に任されているところもあって、自分の好きな時に休憩できるし、逆に休憩をしたくなければ動き回ることもできる。真希先輩は体力が有り余っているからいくらでも相手をしてくれるのだ。

「ほら、早く構えろ。そっちから来い」

もちろんまだ私では先輩の相手にもならないし、すぐに負けてしまうのだが最初の頃よりはマシだ。一番初めの訓練なんて呪力操作もままならずガードがないまま腹を蹴られ、吐いたくらいだから。もちろん、手加減はしてもらっていたけれど。今ではすぐに起き上がることができるようになるくらいには呪力も操作できるようになったし、体力も少しずつついてきた。
先輩に攻撃をしようとして腕を掴まれて投げられる。すぐに受け身をとって一度距離をあけた。受け身が取れるのはパンダ先輩と狗巻先輩のおかげだ。パンダ先輩が投げて受け身を取れなそうだったら狗巻先輩がキャッチする。伏黒くんは受け身くらいは普通に取れるようなのでこの訓練はしなかった。先輩にお姫様抱っこされる伏黒くんを見たかったのに残念だ。

「まだまだ弱っちいな」

今度は地面に体を叩きつけられ起き上がる前に先輩に座られた。グヘッとカエルが潰れたような声がでた。

「術式の方は大丈夫なのか?」
「そっちの方は部屋で別に訓練してます」

体の上に座られたまま答えた。
まぁ、呪符だもんな、と先輩も納得して立ち上がる。正確には呪符ではないらしいが別に言う必要はないだろう。パッと地面から起き上がるとジャージは土で汚れて真っ黒だった。しかし真希先輩が汚れている場所といえばジャージの袖くらいだ。これが実力差かぁと肩を落とす。

「恵―、ちょっとおいでー」

いつものようにどこからともなく現れた五条先生は伏黒くんを呼びつけた。訓練中にくだらないことで呼ぶことは少ないので恐らく任務だろう。もう夕方なのに二級術師は大変だなぁ。















夕方からの任務が終わり帰ることができる頃には日を跨いでいた。明日は寝不足のまま授業を受けることになるんだろうと思いながら伊地知さんに礼を行って車を降りた。

「あ、伏黒くんおかえりー」
「は?」

視界に入ってきたものが信じられなくて目を擦る。

「こんな時間まで何してるんだ?」

聞かなくても特訓をしていたことがわかるほどには汚れていたし、汗をかいていた。変なぬいぐるみを持って。

「ちょっと特訓!」

思っていた通りの答えが返ってきて思わずため息を吐いた。

「早く寝ろよ、いつ任務入るか分からないんだし。任務中に寝るぞ」
「はーい」

やけに素直な返事を訝しむ。

「まさか部屋に帰ってこれから呪符かこうとか思ってないよな」

びくりと肩を揺らしたミョウジにマジかよ、と声が漏れる。いつ寝るつもりだよこいつ。

「玉犬」

パチンと両手を合わせて玉犬を出す。

「こいつがいたら寝るんだろ。早く寝ろ」

そういうとミョウジは嬉しそうな困ったような微妙な表情をする。ミョウジの足に擦り寄る玉犬を抱きしめたい衝動に駆られているのだろうと分かる程度には頬を紅潮させ、掌を握ったり開いたりして、不審な動きをしている。

「言っとくけどお前が寝るまで戻す気ないからな」

断られる前にそう言えば、ミョウジはかなり悩んだ末に頷いた。




翌朝、ミョウジの隈は薄くなっていた。

「伏黒くん、ごめん!」

謝る顔はツヤツヤしていて、玉犬を満喫したことが見て取れた。

「はははっ!恵すごい顔ー!」

ミョウジには何も言って来なかったのに俺の顔を見ただけで笑ってくる五条先生は本当に性格が悪いと思った。




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