「頼むから幸せになってくれ」

北先輩の声が聞こえた気がした。柔らかな何かが唇に当てられた気がしたが目を開けることができなかった。



「ん・・・」
「ナマエ大丈夫?」

目を開けた頃には窓の外は暗くなっていて授業どころか部活まで休んでしまったのか、と気づいた。倫くんがベットの横に椅子を置いて座っていて、部活で疲れているのに待たせてしまったと反省する。水を渡されてありがたく受け取った。

「ねぇ、ナマエ」

じっと私を見つめる倫くんに気づいてペットボトルを置いた。
声が硬い理由に心当たりがないわけがなかった。

「帰ろっか」

泣きそうな顔をした倫くんにこくりと頷いた。








「お前、最低やな」

侑に言われたくない、という言葉を飲み込んで続きを促す。

「ナマエちゃん、さっき倒れた。お前と北さんのことでいっぱい悩んでたんやろうな。隈を隠してたで」
「は?」

侑の言葉に頭が真っ白になる。なんで早く言ってくれないんだよ、と詰め寄る。

「保健室北さんが連れて行った。角名とは違うなぁ」

北さんがナマエを・・・。
それを聞いた瞬間にいてもたってもいられなくなって走り出す。途中で銀とすれ違って授業に遅れるとか何か言われた気がしたけどそれどころじゃなかった。
ナマエが目を覚さないように静かに保健室の扉を開ける。カーテンの隙間から人影が見えて、思わず隠れた。

「頼むから幸せになってくれ」

聞いたこともない北さんの懇願するような声。眠っているナマエの顔を愛おしくてたまらないという表情で見つめていた。声は明らかに苦しそうなのに北さんはナマエの幸せだけを願っていた。だからナマエに北さんの唇が触れようとしても止めることができなかった。
そのキスは自分本位なキスでもナマエを諦めるためのキスでもなかった。もう少しだけ、好きでいさせて欲しいと許しを乞うような、ナマエへの愛を自分の中に閉じ込めてしまうような悲しくて苦しくなる口付けだった。

あぁ、負けたと思った。
好きな人を困らせて、苦しませる俺なんかよりも北さんの方がずっと大人で、ナマエのことを考えていた。
彼女へのキスを責めるなんてことできるわけがなくて、ただ静かに北さんが去っていくのを見送った。




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