「見苦しいぞ、その隈」

コンシーラーで隠してきたはずなのに侑にばれた。それも移動授業ですれ違う一瞬で。友達にはバレていなかったから侑はバレー以外何も気にしていないように見えて意外と見てるんだなと思う。

「どうせ角名のことやろ」

言い当てられて私はどこまでも侑を低く見積もっていたのだなと気付く。

「いい加減自覚しろや!お前が北さんを好きなことくらいちょっと見れば誰でもわかるわ!鬱陶しいねん!そろそろ気づけや」
「分かってるよ、そんなことくらい」
「分かっとるならなんで、ってナマエ!?」

視界の中で歪んだ侑が慌てているのが見えた。なんでそんな慌ててるの。ぐらりと体が傾き、ようやく気付く。あ、私倒れそうなんだ。
がしっと逞しい侑の腕が私の腰にまわったのを感じた。ナイスキャッチ侑―。そんな馬鹿なことを考えながら意識が遠のいていった。










侑が女子生徒に喧嘩を売った、という話が耳に入ってきた。双子のことで頻繁に呼び出される俺は、またか、と思いながらも手のかかる後輩を探しにいく。廊下の角を曲がろうとしたところでヌッと大きな影が出てきて慌てて飛び退く。

「北さん!?」

その影はちょうど探していた侑だった。

「廊下は走ったらあかん。ってミョウジ?」
「ナマエが急に倒れたんや!」

侑は一瞬で動揺が見て取れるほどに顔面を蒼白にしていた。

「俺が保健室まで連れていくから侑は授業にいけ」
「でもっ」
「そない慌ててるお前がいて役に立つんか?」

テストで赤点取ったら部活出れなくなるぞ、と言えば心配そうにミョウジを見ながらもこくんと頷いた。



保健室に先生はいなくて、やはり侑に任せなくてよかった、と思いながらベットにミョウジを下ろした。

「隈なんか作るほどの悩み事でもあるんか?」

問いかけても寝ているミョウジからの返事は返ってこない。
俺でも角名でも頼ればいいのに。隠そうとした痕跡の見える隈を指先でなぞると、ん、とミョウジが身動ぎをした。額に寄せられた皺を伸ばすようにして撫でると穏やかな顔をして再びスゥスゥと寝息を立て始めた。
毎日頭を撫でられにきていたミョウジが昨日は来なかった。角名にやめてほしいとでも言われたのだろうか。何回かこっちに来ようとした動きは見せたものの、踏みとどまり悲しげな表情を浮かべていた。あんな顔されたら期待してしまう。ミョウジと付き合ってるのは角名なのに。少しは俺の方に意識が向いているのかと思ってしまう。身を引くと決めたのに、ミョウジが幸せならそれでええと思ったはずなのに。柔らかな頬に触れて、キスをして、好きやと言い合って抱きしめたくなる。

「頼むから幸せになってくれ」

初めて好きになった人。愛らしい笑みを浮かべる人。
なのにすでに他人のもんになっとる彼女にそっと唇を落とした。




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