「ちょっときて」

部活の片付けが終わって倫くんに呼ばれた。帰りが一緒になるんだから帰り道でいいのに、わざわざ今呼ぶということは大事なことなのだろう。みんなは部室で着替えているからもう体育館にはいない。体育館の角で俯いた倫くんと向き合った。

「ナマエ、別れよう」
「え・・・」

突然倫くんに投げられた言葉に固まる。いつもなら目を合わせて話してくれるのに今日は全くこっちをみてくれなかった。

「飽きたんだよ」

確かに私は倫くんが私のことを見てくれているよりも倫くんのことを知らない。好きな音楽も、倫くんの悩みも、好きな人だって知らなかった。でもね、嘘をついているかどうかくらいは分かるんだよ。

「よく考えたら親戚とか面倒だしもういいや」
「倫く、」
「じゃあね、もう彼女ヅラしないでね」

ぼろぼろと溢れ出した涙を見て、倫くんは一瞬傷ついたような顔をする。違う。違うよ。倫くん。私が泣いているのは倫くんのせいじゃない。そんなことを倫くんに言わせてしまう私に腹が立つんだ。泣くなよ面倒臭い、と吐き捨てて去っていく倫くんの後ろ姿を見つめる。弱くてごめんなさい。嫌なことを言わせてしまってごめんなさい。気持ちに応えられなくてごめんなさい。一度溢れた涙は止まらなくて、声を押し殺して泣き続けた。

「ミョウジ?」

自分以外いないはずの体育館で響いた声にびくりと肩を震わせる。

「何か嫌なことでもあったんか?」

無言で首を横に振る。今は一番きて欲しくない人なのに肩にかけられたジャージは暖かくて、余計に泣いてしまう。

「角名はこないなったミョウジを置いてどこに行っとるんや」
「り、んくんは関係ない、です」
「彼女の面倒くらいみるのが彼氏やろ」

どこか怒っているような声に慌てて否定する。

「・・・もう、付き合ってないです」
「は?」

驚いたような北さんの声は普段より低くてどこか怒っているようにも聞こえた。

「お前が泣いてるってことはあいつが振ったんか」
「私が、先輩のこと好きだから・・・倫くんが振ってくれたんです。・・・やっぱり敵わないな」

言わなくてもいいのにぽろっと溢れた言葉はもう取り返しがつかなくて、北先輩は先ほどよりも低い声では?と声を出した。

「どいつや。お前が好きな先輩って」

ただ聞かれているだけなのに責められているような気持ちになって座ったまま後ずさる。

「・・・すまん。嫌なこと聞いたな」

北先輩が立ち上がる。あんなに大事にされておいて他の人に目がいってしまう私に呆れたのかもしれない。強く膝に額を押し付けて縮こまる。

「好きな人ばかりはどうにもならんからなぁ」

倫くんも先輩も優しくて私だけズルくて逃げてて・・・。
本当にそれでええんか?
治の声が頭の中で響く。良いわけがない。倫くんにあんなこと言わせて私は逃げるなんてことしていいわけがない。

「っ先輩!好きなんです」

体育館に響く私の声に北先輩はきょとんとした顔をする。

「私はっ!ミョウジナマエは北信介さんが好きなんです!北先輩じゃなきゃダメだったんです!」

逃げることができないように伝える言葉はストレートに。全てを見透かされてしまうような瞳と目を合わせた。それでも理解していない様子の先輩に自分が思い浮かぶありったけの好きを伝える。

「好きです!大好きです!愛しています!お慕いしています!ずっと一緒にいたくて、触れて欲しくて、私のことだけを見て欲しくて、好きで好きでたまらないんです!」

国語の成績は悪くはないはずなのに口から溢れる言葉は拙くて、自分が伝えたい言葉の半分も伝えられている気がしない。せめて一番可愛い自分を見せたくて、笑ってみせるけれど零れる涙で上手く笑うことすらできない。

「ミョウジっ!分かった!もうええからっ!伝わっとるから!」

ぎゅうっときつく抱きしめられて、ふわりと香る北さんの香りに、じわりと溶けるような体温に胸が切なくなって苦しくて。

「俺も、いや、俺の方が伝えたかった。俺は、お前のこと愛しとる。大事にする。もう泣かせたくない。幸せにするから俺と付き合ってほしい。」

背中に回された北先輩の手は少し震えていて、どくどくと心臓が脈打つ。緊張なんかしないといつも言っている北先輩が、私のために必死になっている。そう考えると堪らない気持ちになる。

「返事は?」
「付き合ってくださいぃ!せんぱいぃぃ、好きですぅぅ・・・」
「なんでまた泣くんや」
「嬉し涙ですぅ・・・」

二人の隙間を無くすようにきつく抱きしめあって、北先輩の胸に額を擦り付けた。
大きな手が愛おしむように頭を撫でてくれた。




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