職員室から出るとちょうど角名が空き教室に入っていくのが見えた。今しがた顧問に渡された大会日程をついでに渡してしまおうと後を追う。しかし、教室の扉に手をかけたところで言い争うような声が聞こえた。

「こいつ俺と付き合ってるから」
「で、でも従兄弟なんじゃないの!?」
「従兄弟でも結婚できるし」

焦るような女子生徒の声に言い返す角名の腕には誰か抱かれている。別に恋愛は禁止されてへんからええけど問題起こすのはちゃうなあ。盗み聞きは良くないと思いつつ、言い争って何か起きたら大変だ。かといって何の話をしているのか分からない今首を突っ込むわけにはいかない。念の為待機しとくか。そう思って後輩の隣にいる女の子に視線を移した。

「ミョウジ・・・?」

今付き合うとる言うとったよな。相手が彼女だと分かる前までは興味も湧かず、部活もちゃんとしてくれたらええくらいに思うとったのに。隣にいるのがミョウジだと分かった瞬間にどくりと心臓が嫌な音を立てたのが聞こえた。胸が締め付けられて呼吸が苦しくなる。未だかつて誰にも抱いたことのなかった感情がじわじわと胸の奥から滲み出す。そこでやっとあぁ、俺はミョウジのことが好きなんや、と自覚した。

「けど侑くんに、」
「なんの騒ぎや」

自覚した瞬間にもう他の人に触れられている彼女を見たくなくて、でも放っておくこともできずに扉を開けるしかなかった。聞いた限りその女子生徒が侑を好いているようだ。変に因縁をつけられたミョウジを助けるためのその場限りの嘘かもしれへん。無理矢理にでもそう思い込んで、二人の前に出る。まずはミョウジの安全の確保が優先。本当は自分が彼女を守りたいのにそんな心の声を聞こえないふりしてこの場を去るように伝えた。









「俺達付き合うことになったから」
「は!?角名、お前っ!」
「・・・・」

驚きの声をあげる侑と逆に押しだまる治。報告の現場にちょうど遭遇してしまった、というよりはこれは角名が自分がいる時に牽制として言ったのだろうと察する。双子と一緒に俺のことびびっとった癖にようやるわと思う。胸は痛いがミョウジが幸せになれるんならそれでええ。俺が幸せにしたい。褒めてくれと強請るのはあの丸っこくて可愛らしい頭を差し出すのは自分だけにして欲しい。そんな気持ちは見ないふりして部員達のロッカーを雑巾で擦り続けた。

「信介、集合やって」
「あ、あぁ。すまんな」
「珍しいなお前がぼーっとしとるなんて」

手を止めないところはお前らしいな、と笑うアランと共にすでに集合している部員達のもとへ急いだ。先輩達にも珍しいな、なんて声をかけられ素直に謝る。

「そろそろユニホーム配ろうと思うてな」

そんな監督の言葉に部員達が浮き足立つのを感じた。もう結果はわかっとる。ユニホームをもらえる奴は今まで積み重ねてきたもので決まるやから。自分はもらえないと分かっていてもこの瞬間は少しソワソワしてしまう。アランに言うたらソワソワ?信介が?とでも言われるんやろな。

双子は当たり前のようにユニホームをもらい、角名も呼ばれた。俺の名前は呼ばれんかった。別に試合に出る出ないで人間の優劣がつくわけやない。彼らが人一倍バレーを愛し、練習に精を注いどることは知っとる。それでも、少し悔しいと思うてしもた。





「先輩!今日は準備の時間余ったのでボール全部磨いておきました!」

いつものようにミョウジが頭を差し出してくる。その頭に自分の手をのせてあ、と気付く。彼氏おるのにええんやろか。でもこれは浮気ちゃうし、何よりミョウジがそれを望んでいる。少々躊躇いがちに手を動かすとミョウジは嬉しそうにする。なんで俺じゃダメなんやろう。こんなに喜んでいるのに。こんなに好きでいるのに。愛しているはずのミョウジに憎らしさすら感じる。なんで?なんで角名と付き合ったん?部活の後輩で、しかもミョウジの親戚でもあって。過ごす時間が違う。近さが違う。勝ちようがないやん。もう振られに行くこともできんからこの想いに見切りすらつけられんやん。俺はどうすればええん?ミョウジは何を望んどる?
結果が全てやと喚く侑に過程も大事だと言ったことを思い出す。その気持ちは今でも変わらない。でも侑の言った意味も十分わかる。付き合えんかったら好きになった意味はないとは思わん。見返りを求めて好きになったわけや無いからな。でも俺はまだ何もしとらん。アプローチも告白もまだ何もできとらん。それでミョウジに好きになってもらえるわけあらへん。一歩どころか十歩も百歩も角名に出遅れてしまった俺はミョウジを困らせることなんてできん。俺にできることはただミョウジが幸せであることを祈るのみや。




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