「とりあえず俺と付き合ってよ。別に今は俺のこと好きだって思ってなくてもいいから」

真っ直ぐな瞳で好きだと言われて断ることもできなかった。断る理由がなかった。躊躇いがちに頷くと倫くんは嬉しそうな、でもなぜか少し悲しそうな顔をした。








付き合ってからも特に変わったことはなかった。授業を受けて、部活に行って、一緒に帰って、勉強をして。付き合ったからといって成績が上がったり落ちたりしたわけでもなければマネージャーの仕事が急にできるようになったりもしない。いつも通り倫くんと北先輩たちに助けられて無事に部活を終える。付き合うって何をするんだろう、と初歩的な疑問を持つ程度には何も変わらなかった。従兄弟、という関係に彼氏彼女という肩書きが増えただけだ。


「ねぇ、ナマエ明日部活休みだからさ、どこか出かけようよ」
「うん!あ、でも私この辺りまだ覚えてない・・・」
「大丈夫。大体はわかる」

基本的に部活三昧だったのは倫くんも同じはずだがいつの間にか調べてくれていたらしい。変わったこと・・・あったかも。倫くんに「してもらう」ことで劣等感を感じていたのが最近では素直に受け取ることができる。でもそれは倫くんが私が何もできないから守っているんじゃない、ということを知ったからだろう。好きだよ、と言われた時、純粋に嬉しいなと思った。だって好きになってくれるってことは私のことみていてくれたってことでしょ?小さい頃から変わらない暖かい手に撫でられて嬉しいな、と思うのは私が倫くんを好きだからなのかな。でもそれだったら・・・。
自分の頭を撫でてくれる、もう一つの大きな手。落としたハンカチを拾ってくれた、褒めてくれた手を嬉しいと思ったのは何故だろう。





「ナマエ買い物行きたいって言ってたでしょ」
「うん!部活でほとんど着ないけど洋服が欲しい!あと、テーピングが切れかけてたから買っておきたい!」
「テーピングはすぐ終わるし洋服から見る?帰りに寄って帰れば良くない?」
「そうする!」

玄関までナマエを迎えにきた角名は手を差し出した。しかしナマエは差し出された手を見て首をかしげた。

「デートなんだし手、繋ごう」

戸惑いつつも差し出された手に軽く自分のものを重ねるとキュッと握り込まれた。こんなふうに手を繋いだのなんていつぶりだろう、と考えているとするりと自分の指の間に倫くんの指が滑り込んできた。驚いて手を離そうとするががっちりと固定されていて離せなかった。

「離すとナマエ迷子になりそうだしね」

その発言にムッとしつつも事実であるため否定できない。大人しく手を繋いでおくことにした。

「この服ナマエに似合うんじゃない?」

店に着いてすぐに倫くんにあてがわれた服は適当に言ったわけではなくパッと目に入って似合いそうなものを選んでくれたらしく言われた通り自分でもよく似合っていると感じた。これはもう自分で服を選ぶより確実なのでは?とすら思う。

「倫くんすごい・・・」
「よく見てるからねナマエのこと」

繋いだ手は離さないままで他の服も何着かナマエにあてた。角名の選ぶ服はどれもナマエの好みにも合っていてその正確さに少し引いた。

「そろそろテーピング見に行こうよ」
「服はもういいの?」
「たくさん見たもん」

全部私の服なのに繋いだ手と逆の手で全て倫くんが持ってくれている。私のなんだから私にも持たせて!と言っても、ナマエは部活で使うテーピングを持ってくれたらいいから、と、丸め込まれてしまう。明らかに負担が違うのに・・・。不満に思いつつも拒否しきれないのは倫くんがやっていることは全て私のことを大事にしてくれていることがわかるからだろう。くすぐったい気持ちになりながらスポーツ用品店へ向かった。


「あれ?ナマエちゃんと角名やん。」

このテープがいいって侑が言ってた。でも治はこれがいいって言ってた。とテープを物色していると聞き覚えのある声が聞こえた。

「尾白先輩!」

先輩はサポーターを見ていたようで両手に違う種類のサポーターを持っていた。

「ちょうどいいところにおった!これとこれで迷うてたんや」
「先輩サポーターしてましたっけ?」

思い出してみるが先輩がサポーターをつけているところを見たことはない。

「俺のじゃなくて信介のや。あいつがサポーター買いに行く言うてたから気になってな」

尾白先輩は北先輩の買い物についてきたらしいが、その北先輩は見当たらない。北さんいませんけど、と倫くんが言うと尾白先輩はほんとや!?と声をあげる。今まで気づかずに一人でサポーターを見ていたのだろうか。

「すまんなアラン。念の為ドリンクの粉の予備を、・・・ミョウジ?」

背後から現れた北先輩は普段部活で使っているドリンクの粉を持っていた。少なくなっていたっけ?と思い出すが買い足すほどでもなかったと思う。

「あぁ、信介。ミョウジと角名はテーピング買いに来たんやって。粉買い足すほど少なかったか?」
「・・・重いからな。次いつオフがあるかわからんし俺が買えるなら買っておいた方がミョウジが楽やん」

先輩は私のことを考えて粉のストックを買おうとしてくれていたらしい。当たり前のように気付かないところでも自分を助けてくれようとしていた姿にじんわりと胸が暖かくなった。

「ハァン、信介は流石やな。角名達は買い物でもしてたんか?」

倫くんの手にかかっている大量の袋を見て尾白先輩は不思議そうな顔をした。

「はい。デートしてたので」
「で、デート!?二人は付き合うとったんか!」
「先輩知らなかったんですか」

みんな知ってると思いますよ、と笑う倫くんに尾白先輩は大げさに驚いた。

「彼女の荷物を持っとる言うことかー!良い彼氏やな!」
「危ないので片手を空けさせておきたいんで」
「両手空いとるやろ?」
「手を繋いだら塞がります」

倫くんはテープを戻すと私の手をとった。先輩の前でなんてことをっ!と振り払おうとするが痛くない程度にぎちぎちに握られているため手を離せず、仲良しアピールをするために手を振り回したようにしか見えなかった。

「か、カップルしとるなぁ」

ほぉぉぉぉと関心を持った様子を見せる尾白先輩にそうやな、と普段より低い北先輩の返事が聞こえた。その声に違います!と、否定しようとするが、付き合っているのも最近では倫くんと仲が良いのも事実だし否定することでもないことに気付く。

「仲がええようで安心したわ」

北先輩の言葉は嘘をついているようには聞こえないがその表情は安心しているようには見えない。

「せんぱ、」
「ナマエ、そろそろ・・・」
「あ、う、うん」

結局北先輩に何も聞けないまま倫くんが選んだテープを購入して、店をでた。

「どうしたの?急に・・・」
「・・・お腹空かない?」

言われてみればお昼の時間はとっくに過ぎていて、お腹はきゅるきゅると空腹を訴えている。

「ご飯食べに行こ」
「うん」

倫くんに手を引かれつつも北先輩の表情が頭から離れない。痛みに耐えるような苦しんでいるようなそんな笑い方。北先輩はあんな表情をする人ではなかった。

「倫くん、やっぱりおうちに帰ろ。家から野菜がたくさん送られてきたって言ってたよね」
「それはもう大量に。もらってくれない?俺料理できないから腐らせる」
「うん、ありがとう。貰って帰るね。お昼はそれ使ってご飯作るよ。荷物多いし外だと大変でしょ?」

一度気になるともう外でご飯を食べる気にはなれなかった。本当のことを言うと一人になりたいくらいだ。だけど私に付き合ってくれた倫くんを振り回すわけにはいかない、という安易な考えで倫くんの部屋の中に入れてもらった。



それが私たちの関係が変わってしまうことも知らずに。




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