「あはは!確かに僕の名字は王子だけど、王子様だなんて!」
「え、ぁ、ごめんなさい。えっと、」
「僕の名前は王子一彰。君は辻ちゃんの彼女かい?」
「い、いえ。新ちゃんとは幼馴染で・・・」

彼女と王子先輩の声が遠くに聞こえる。いつか白馬に乗った王子さまを夢見ていた彼女。君が望むならキザで恥ずかしい王子だって模してみせるのに。

「ぁ、あの!連絡先を交換してもらえませんか?」
「僕でよければ」

噛み締めた唇から血が滲んだ。











「新ちゃん!ボーダーにあんな王子様いたの!?私、知らなかったんだけど!」
「・・・うん。B級の王子隊」
「しかも隊長なの!?すごい!かっこいい!本当に王子様だ!」

白く柔い頬は紅潮していて、丸い瞳はキラキラと輝いている。どうしたって俺が彼女から引き出すことができなかった表情。王子様を求めるナマエの姿はこんなに可愛らしくて憎らしくて愛おしい。
いつだって俺は彼女の“王子様”にはなれなかった。物語の中だけだから、と今彼女に触れることができるのは王子様なんかじゃなくて俺なんだと言い聞かせていたのに。

「新ちゃん、お願い」

キュッと服の裾を掴まれる。嫌な予感がした。

「王子様のこと、紹介してほしいな」

どうしてこんなに可愛らしい唇から残酷な言葉を吐けるのだろうか。

「・・・嫌だよ」

喉の奥から掠れた声を絞り出す。ナマエの“お願い”を断ったのは、これが初めてだった。




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