「やぁ辻ちゃん」
「王子先輩。・・・こんにちは」
「今日はプリンセスと一緒じゃないんだね」

彼女の名前には掠りもしないあだ名なのにプリンセスが誰を指すのか、いやでも分かってしまった。

「そう言えば彼女、まだどこの隊にも入ってないんだね」

ナマエはああ見えて少し我儘だ。協調性が全くないわけでもないし、人から嫌われているわけでもないから何回か誘われたことはあるらしい。だけど誰かの指示を聞くのは嫌だからとソロで居続けている。

「僕の隊に誘ってみようかな」
「・・・めちゃくちゃな戦い方するし合わないんじゃないですか」
「そうかな。この前模擬戦でうちに入ってもらった時はすごく相性が良かったけど。それに予測がつかないって面白いじゃないか」

ああ。きっと彼女は王子先輩の戦い方に合わせたんだ。誰より自由を好むのにそれでも合わせようと思うくらい王子先輩のこと・・・・。

「新ちゃーん!一緒にかえ・・・王子様!?」
「最近よく会うねプリンセス」
「こ、こんにちは!」

ナマエは素早く俺の後ろに隠れて王子先輩を伺う。あわあわと唇を震わせて、女性を前にした俺みたいな反応をしている。

「そうだ。今から個人ランク戦をしようとしていたんだけど君たちもやるかい?」
「新ちゃんどうする?」
「・・・俺はナマエに合わせる」

本当はナマエと王子先輩を一緒にいさせたくないから今すぐにでも彼女を帰らせたい。でもあからさまに邪魔をしてナマエに嫌われるのは怖い。

「今日はやめておきます。ま、また誘ってください」
「残念。じゃあまた今度」
「お疲れ様でした。新ちゃんいこ!」
「あ、うん。お疲れ様でした」

どこかの貴族のように優雅に手を振る王子先輩にナマエはまた頬を赤く染める。

「今日何か用事あったっけ?」
「実はね、パンケーキ屋さんの割引チケットもらったから新ちゃんと食べに行こうと思って」
「・・・王子先輩誘えばよかったのに」

せっかくナマエが誘ってくれたのにモヤモヤが取れない頭では余計なことを言ってしまう。それでもナマエは嫌な顔一つもせずににっこり笑って俺の手を引いた。

「美味しいものは昔から新ちゃんと一緒でしょ?」

バクバクと心臓がうるさい。約束していたわけじゃない。ただ小さい頃から一緒にいたからというだけかもしれない。それでもずっと夢見ていた“王子様”より自分のことを優先してくれたみたいで嬉しかった。

「・・・チョコといちごどっちも食べたいだけでしょ」
「バレちゃった?」

目の前に置かれたパンケーキを食べさせ合うなんて甘ったるいことはせず、二人で綺麗に半分こする。こういう時“王子様”ならどうするのだろう。幸せそうな顔でパンケーキを頬張るナマエを眺めながら自分の分のパンケーキを切り分ける。
きっと、彼女のためにパンケーキを切り分けて差し出すのかもしれない。

「・・・新ちゃん?何してるの?」
「ぁえ!ぁ!な、なんでもない!」

無意識に一口切り分けてナマエに差し出していたパンケーキを慌てて頬張る。

「変な新ちゃん」

彼女の“変”だという言葉が、俺はナマエの王子様にはなれないことを示しているように聞こえた。




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