★笑顔を見せて【4】





「ハッピー、離れてろ…」

ナツに促されたハッピーはコクンと頷き、飛び立つ。
彼達が見える範囲内で、羽ばたかせていた翼を止めて見守っていた。

「俺はおまえと戦うつもりはないぞ。ナツ、…おまえに話がある」

ルーシィを足元へと下ろし、ゆっくり話し掛けてくる。

「うるせえ、ルーシィ返してもらうぞ!……火竜の、…うお!?」

聞く耳持たず突進しようとしたナツだったが、相手も炎を纏い同じ動作で構えている姿が目に映り、思い止どまった。
明らかに自分よりも凄まじい魔力を感じたからだ。

「炎…?…おまえ、誰だ!?…顔、見せろよ!」

ナツの言葉を聞きニヤッと口元が緩んだかと思うと被っていたフードに手を掛け、取った瞬間――、
ナツはその顔を直視し、目を疑った。

「へっ!?…おまえ、エドラスの…、なわけねえよな。…どういうことだ!?」

振り上げていた腕を戻し疑い深く目を擦って、

「俺も…ナツだ。…ナツ・ドラグニルだ」

自分をナツだ、と名乗る目の前の男に――
ナツの元へ降りてきたハッピーも大きく目を開き、驚いている様子だった。

しかし、

「ナツにそっくりだけど、良く見てよナツ。ちょっと雰囲気が違う、…声だってナツより低いし。ナツが大人びてるというか…」

首を傾げてじっくり観察し始めた。

「あぁそうだ、さすが俺の相棒だなハッピー!……実を言うと、俺は未来のナツ、つまり…おまえ、なんだ。…理由があって少しの間こっちの世界に来ているんだけどよ。ルーシィとおまえの危機が迫ってるからな…」
「は?…ルーシィとオレの!?…つーか、もうなってんじゃねえか!!」
「そうだよぉ、ルーシィ変だもん…」
「そうじゃねぇ…聞けよ、たくっ。…昔の俺はこんなんだったっけか?…自分が情けねぇ…」

ナツとハッピーの発言に、はぁ〜と溜め息を吐き、呆れ顔。

「んっだとやるか!?オレだとわかってても容赦しねえぞ!」

ツリ目と眉が一段と上がる。

「落ち着けっての!!…おまえ、さっきハッピーに言ってただろうが!?…今度はおまえが落ち着け。……それよりも今はルーシィのことが優先だ!」

ルーシィを再び抱き抱え、ナツの胸元へと寄せながら問い掛けてきた。
真剣な瞳がぶつかり合う。

「…ナツ、おまえは…ルーシィが大事か?……こんな状態になって、どう思った?」
「いあ、…どうって…そりゃ、ルーシィは大事な……、仲間だ………。目の前から消えたようにいなくなった時は正直、驚いたけどよ…」

ルーシィを受け取り、俯くナツ。

「…それだけか?…まぁ、良い。……ナツ、おまえは妖精の尻尾の大事な仲間がたくさんいるよな?
なら、もしルーシィが、仲間の一人くらい抜けても…代わりは他にもいるだろう?…リサーナも戻って来たからな」

試されているような気がして、鈍感なナツでも何かを察したようであった。

「…おまえ、何が言いたいんだよ」

ルーシィの背中に回している腕に思わず力が入ってしまう。

「今話した俺の言葉の意味するもの…それから自分の想いに気づかねぇままだと、ルーシィの心は…、感情は戻ってこねぇぞ!」

いきなり声が張り上がった。
大人びたナツが本人を見下ろし、話している姿を見て不思議な感覚で見つめながら聞いていたハッピー。

「そもそもルーシィがこんな風になったのは俺…いや、おまえが原因なんだからな!」

見上げる程の身長差のある未来の自分から受けた台詞にピクッと反応した。

「ルーシィが元に戻るには、ナツの行動次第ってこと?」

先ほどまで聞き側だったハッピーの口が、突然開いた。

「おぅ!…そうだ。だからナツ!良く考えて行動しろよ…いや、まぁ自分の口からおまえに言うのも何だけどよぉ」

ポリポリと頬を掻く仕草に思わず頬が緩んだハッピー。
けれど、そんな相棒の横で珍しく黙ったままのナツは、自分の腕の中にいるルーシィへと目を向けた。
眠っているのか、大きな瞳は閉じられている。
ふと彼女の頬から、いや瞼の下からスーッと涙が流れてきたことにハッとした。


(ん…?あれ?…この光景、見たよな?)


そういえば部屋にいた時もルーシィの頬から雫が流れたが、自分が濡れていたからだと思い気にしていなかったが――

もしかして、あれは涙だったのか…?

と今更気がついたのだった。
再び流れてくる涙を複雑な想いで拭い、ルーシィを見つめる。

「ナツ…、大丈夫?」

心配そうにナツの顔を覗いている青い猫。

「おぃ、ナツ!しっかりしろ!!」

桜色の頭が二つ、ナツがナツの頭を叩いた。

「痛ぇな…何すんだ!!」

ギロッと睨み合う二人。

「…あい!今のナツ達をルーシィが見たら、爆笑ものだね〜」

ふふ…っと暢気に笑っているハッピーを横目に、ピリピリしたムードが一気に変わった。


急に目を細めルーシィの頬にそっと触れながら、彼女を抱えているナツへ投げ掛ける。

「…俺がいる時代では、ルーシィは笑ってくれねぇし…ずっと表情がないままなんだ。
今、ここで元に戻さねぇと――。俺のようにはなってほしくねぇんだよ。未来を、…俺たちを変えてくれ…、ナツ!」

自分自身の顔から見たことも、したこともないような表情を初めて見たからか、何故か胸を掴まれたように苦しかった。

「あぁ…っと、そろそろ時間切れだな、俺は自分の居場所へ戻る。…俺がおまえに会いに来た理由は…、わかったよな?…頼んだぞ!ナツ」

じゃ〜なと、ルーシィにチラッと視線を向けてからナツのマフラーに触れ――

「イグニールのマフラーもだけどよ、……大事にしろよ!それからルーシィの部屋に戻って本を良く見てみろ!その中に原因の元があるはずだから…」

最後に意味ありげな言葉を残して、右手を挙げながらふわっと目の前から消えていった。

「当たり前だろ!大事にする、…してるぞ」

胸元に揺れるマフラーの端をギュッと握り、同時にルーシィも無意識に強く引き寄せていた。

「…そんじゃ、ルーシィの部屋に戻るぞ!ハッピー」
「あいさー!」





宝物:イラスト←こちらに孤翼さんより…“未来のナツ”をイメージした素敵なイラストを飾らせて頂いておりますので、
是非ご覧下さい^^


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