しあわせ家族計画

ボンジュール、鬼サイボーグの妹です。


『我々は断固働きたくない! このハンマーヘッドが、働きたい奴だけ働いて他は養ってもらえる理想郷を! 実現させるのだ!!』


「お前の生き別れの兄とはコイツか?」
「んな訳ないでしょうが。どういう意味だクラァ」

 確かに私は今世に生まれ変わって以来、任務に消極的だ。しかしそれはあくまで仕事が真田の為のものでないからであって、断じて私自身が面倒くさがりなのではない。別にハンマーヘッドを心の中で熱く応援したりとかしていない。
 そんな私の突っ込みを鼻で笑った先輩(ムカつく)は、私が見ていた携帯の画面を覗き込んできた。そこに映っているのは、私達の今の雇い主への襲撃を堂々と宣言する桃源団の首領とその一味。とはいってもこれはテレビ番組の中継などではなく、忍鳥の足に括りつけた小型カメラから送られてきている映像である。

「ここまで予想通りに動いてくれると、いっそ清々しいですねぇ」
「がむしゃらに力を振うことしか考えん馬鹿の典型だな。お前が潜入してまで調べるまでもなかった」

 そう言ってこちらを見下ろした先輩は、呆れたように溜息を吐く。ビルの屋上は強い風が吹きつけてくるせいで、互いの髪と巻いたマフラーがゆらゆらと空中に踊った。

「いつもそうだが、お前はこの一流の忍者・ソニックから見ても慎重を期し過ぎる。忍びたるもの『敵を知り己を知れば百戦危うからず』……とは言うが、お前の場合は雑魚相手にまで前準備に力を入れ過ぎだ」
「だぁから、それが私のスタイルなんですってば。いいじゃないですか、確実で」
「……分からん奴だ。その実力なら今は餓鬼とはいえ、もっと労せず多くの標的を狩れるだろうに」

 自分の技を高めることにしか興味のない筈の先輩が何故ここまで私を買ってくれているのかは不明だが、残念ながらこの戦法は前世からの筋金入りだ。敵の強み弱みをきっちり把握してからの不意討ち、はっきり言えば弱点を確実に突いての一撃必殺。時間と労力をかける代わりに成功率は100%をお約束するカスガズキッチン(殺戮)です。外道?聞こえませんな……。
 というかそもそも、私はある程度お金が溜まったところでさっさと一般人になってしまうつもりなので、殺人で名が売れてもかなり微妙なのだ。仕事中は常に面をして、身元もばれないようにしているけれど。すると目の前の先輩は私のそんな企みを嗅ぎ取ったのか、鋭い吊り目を更に吊り上げてぐいっと顔をこちらに寄せてきた。近い近い近い。

「カスガ貴様、まさかまだ里にいた時言っていたような下らんことを考えてはいないだろうな。お前はゆくゆくはこの最強の忍びソニック様のみ・ぎ・う・で・として! 生涯暗躍させてやってもいいと言ってるだろう!!」
「初耳ですが???」

 このぶっ飛んだ戦闘狂がウデダメシダーとか何とか言って里の手練れを大勢ぶっ殺したお陰で、そのどさくさに紛れて里を抜けられたことは確かに感謝している。しかし流石に死ぬまで着いていくのは嫌だ。大事なことだから2回言うけど絶対に嫌だ。
 大体、私には大事な家族がいるのだ。4年前暴走したサイボーグに町を襲われ両親は殺されてしまったが、兄は一命をとりとめ今も生きているらしいと分かった。「ジェノス」という金髪の青年サイボーグに命を救われた、悪人や怪人を退治してもらったという人の噂を度々聞くからだ。サイボーグって何だよ……と思いつつ携帯で撮ったという写真を女子高生に見せて貰ったが、確かに兄で間違いはなさそうだった。何があった兄よ。

 私の記憶が正しければ、4年前に15歳だった兄はまだ未成年だ。大学……には通っていないと思うが、子供の私が身一つで会いに行っても後々困らせてしまうだろう。主に経済面で。私自身は忍者と小学生を兼業している身だが、あの何でもできるくせに不器用な兄に正義の味方と学生あるいは社会人の両立などという器用な真似ができるかと言われれば、正直首を傾げるところだ。
 家族が自分を残して全員死んでしまったと思っているであろう兄には申し訳ないのだが、せめて私が押しかけても苦にならないくらいのお金をしっかりと稼いでから、会いに行こう。そして一緒に暮らそう。

 というライフプランは既に建築済みだというのに、このミスタークレイジーは何を抜かしてくださるのか。

「嫌ですよ、私はお金稼いだらとっとと足洗って兄さんと暮らすんですから! 先輩絶対邪魔しないで下さいよ?!」
「何ィ、兄弟子の俺に向かって何たる言い草だ! 里に来たばかりの頃から面倒を見てやったのを忘れたか」
「来たっていうか死にかけで瓦礫に埋もれてたところをアブダクションされてきただけなんですけど」

 あーだこーだと言い合いをしていると、にわかに下の階の気配が騒がしくなってきた。同時に口をつぐんで耳を澄ませると、どうやら今度こそ桃源団がここのビルをロックオンしたようだ。目を合わせて頷くと、ソニック先輩の輪郭が影を帯びてゆらりと揺らぐ。そのまましゅるりと影に沈んでいったところを見ると、恐らくゼニールの部屋まで『跳んだ』のだろう。私?普通に屋上のドアから退場しましたが何か。

 ……締まらないって? あの人が常識なさ過ぎなんだよ。
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