がる空
If you would be loved, love and be lovable.



○月×日
――から逃げ出して数週間が過ぎた。どうやら追手は振り切れたようだ。しかしまだ油断は出来ない。警戒を続けることにする。


○月△日
どうやら――は捜索を諦めたらしい。街で見かけていた連中も姿を消した。私たちは逃げ延びたのだ!ああ…感謝の気持ちを祈り捧げる神がいない事をこんなにも嘆いたことがあっただろうか…!


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○月○日
何度か街を移動して、ようやく安心できる住居に腰を落ち着けることができた。彼女の容体も安定している。医者によればお腹の子も順調に育っているようだ。どうか、どうか、無事に生まれてきますように…。


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△月○日
ついに、私たちの子供が生まれた!経過は母子ともに良好。その髪色も瞳の色も私のもので、彼女は少し悔しそうだったが、とても幸せそうに笑っていた。ああ、彼女のこんな笑顔は一体何年ぶりだろう。かくいう私も愛しさで表情筋が緩むのを止められない。ああ、お前のおかげで私たちは今、世界一幸せだよ、××。


○月□日
××が生まれて、数か月が過ぎた。――の動きを常に警戒していた私たちからすれば、拍子抜けするほどの平穏が続いている。そして、今のところ××にアレが反応する様子はない。念の為遠ざけてはいたが、未だ私が使用できるところを見ると、心配は杞憂に終わりそうだ。


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×月○日
あんなに小さかった××も今日で三歳の誕生日を迎えた。そして同時に彼女が二人目の子供を宿していることが判明した。もう妊娠してしばらく経っているにも関わらず、ただ肉が付いただけだと勘違いしていた彼女は、我が妻ながら鈍すぎる。しかし喜ばしいことに変わりはない。この子は私と彼女、どちらに似るのか楽しみだ。


△月×日
××がしきりに彼女のお腹を気にしている。幼いながらに血を分けた兄弟がそこに居ることを感じ取っているらしい。――から隠れるために選んだこの人里離れた土地では、同じ年頃の子供はいない。お腹の子が生まれれば、きっとこの子の寂しさを和らげてくれるだろう。


○月△日
眠りにつく××に昔話を語って聞かせた。私と彼女が最も短く、最も深い付き合いをした親友の話だ。ああ、君がいたらきっとこの子はとても懐いただろうね。君の暖かさは、人に安らぎを与えるから。


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□月○日
ああ、なんてことだ…!待望の二人目の子供は、彼女に憑りついていたものをその身に宿して生まれてきてしまった!その代償はこんな赤子にはまだ大きすぎる…!ああ…彼女が泣いている。まだ幼い××も不安がっている。私が、私がしっかりしなくては。愛する家族を守るためだけに、私は生きているのだから。


□月△日
二人目の子供は髪色も瞳の色も彼女そっくりだった。けれど、どんなに優しく抱いても、頬を撫でても、その瞳に私が映ることはない。


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△月○日
まるでこの子が生まれるのを待っていたかのように――から再び追手が放たれた。彼らはこうなることを読んでいたとでもいうのか?今は時間がない。家族を連れて逃げなければ。


△月×日
くそ!!――だけでなく奴らまで!!もう彼女は力を使えない。まだ何もわからない赤子では力の使い方などわからないだろう。ただの一般人になった彼女と幼い子ども二人を連れたこの逃亡生活は一体いつまで持つんだ?
ああ、もし許されるなら、君に助けを希うのに…!


×月□日
ついに恐れていたことが起きてしまった。アレが私ではなく××を選んでしまった。もう私にアレは使えない。そして、私と違って  を持たない××は、……くそ!くそ!


くそったれイノセンス!!!




―――――――――




「イノセンスはさ、偽りの神なんだよ」

涙や血で滲み、傷みも激しい手記から顔を上げると、シルクハットを被った見た目だけは色男であるノアが楽しそうにこちらを見つめていた。それに思わず眉を寄せて、少女は溜息をつく。

「それで…真の神の使徒はご自分達だと?」

「そーそー。だからさ…」



―――この聖戦に勝つべきは、俺達だと思わない?



ニッコリとこちらを見つめる男に答えることなく、少女は立ち上がる。薄汚れた手記をコートの内に仕舞い込み、一礼して踵を返した。

「あれ?スルー?」

ノアが勝つべきだと思うのなら、勝てばいい。
もしイノセンスが勝つのなら、正義は教団にあったということだろう。




どちらにせよ、少女には何も残らない。

大切に思う何か、その一欠片すらも。



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