がる空
32

「へえ!教団にも日本人で、刀使う奴がいるんスか!」

「そーそー。すんげー目付き悪いし気ィ短いけど、かなり強ェぜ」

「そりゃあいっぺん戦ってみてぇな!」

ラビが衝撃から立ち直った後、二人は和気藹々と語り合っていた。基本人当たりのいい二人だ。教団で唯一の日本人エクソシストを話の種に、話はどんどん盛り上がる。

(山本武……ねぇ)

ラビとの会話に屈託なく笑う少年は、年相応の爽やかボーイといった感じだ。こうして話していると、先程壁を殴りつけたり刀を振り回したりしていた人物とは思えなくなってくる。
笑顔で答えながらもじっと観察を続けていたラビだったが、不意に表情を曇らせた山本に首を傾げた。

「その…さっきはスイマセンでした」

「ほ?………あー、俺は全然気にしてないさ。ただ、コムイがショックで顎外してたぞ」

「えっ!?」

明日謝っとかないとなー…と頭を掻く山本に、今度はラビから声をかけた。

「何て言ったらいいんかなー……武と喋ってると、さっきブチキレてたのとはまるで別人さ」

刀を振ってた時は別として、という言葉は飲み込む。

「ハハハ……。自分で思ってたよりも、余裕無くなってたみたいッス」

ごろり、背を地面に倒して、木々に囲まれた夜空を見上げる。ラビから見下ろせる様になったその顔は、眉尻が下がってしまっていた。

「前にもあったんスよ。こうやって突然訳も分からない事態になって、命狙われて、追い詰められて…」

「………」

「けど…何でだろーな。全然違うんだ、そん時とは」

悔しそうに拳を握り締めるボンゴレ雨の守護者を、次期ブックマンの隻眼が、ただ静かに見下ろしていた。











「駄目だ。それは出来ない」

「!!なんで…っ」

目の前で抗議してくる銀髪の少年、獄寺隼人。その隣ではこの少年より早くに教団に保護された笹川了平が、珍しく黙り込んで何かを考え込んでいる。すぐそばに控えていたリーバー班長に目をやれば、とんでもないことを申し出てきた二人へと隠すことなく訝しげな視線を送っていた。

「君達は一般人だ。エクソシストじゃない」

アクマと戦わせることは、出来ない。
そう言い切れば、何かを言いたげに口を開き、悔しげに唇を噛む。そんな彼を冷静に見下ろしながら、コムイは額に手を遣りながら重い溜息を吐く。本来ならば、彼らの様な子供がアクマや教団の存在を知ることすら、あってはならないことだったのだ。ただ偶然に偶然が重なって彼らを保護することになっただけで、本当は……

(本当に……?)

偶然アクマに襲われ、偶然生き残っていた所を、偶然エクソシストに助けられ、教団に保護された、全員面識があるという子供達。内一人は教団の門前に突然現れ、その理由も方法も明らかになっていない。コムイは、その視線を了平の右手に移した。アクマに襲われた際に負傷したという、その拳。聞けばアクマに殴りかかったらしく、保護された当初、骨が砕けてしまっていたらしい。しかし、あれからまだ半月もたっていないにも関わらず、その傷は全快しているように見える。神田のようなセカンドエクソシストでもない限り、そんなことはあり得ない。
どうしようもなく、彼らは怪しいのだ。戦う云々以前に、教団でこのまま保護し続けることすら、コムイの権力を駆使しようとも、危うくなるほどに。


「くそッ…!オレ達は一刻も早く十代目達を探し出して、元の世界に…っ!!」


(もとの……世界…?)


引っ掛かりを覚える獄寺の言葉にコムイが口を開こうとする。まるでそれを遮るかのように、けたたましく警報が鳴り響いた。



《警告!アクマが本部内に侵入!繰り返す!アクマが本部内に侵入!》


「な!マジかよ…!」

一体どうやって入り込んだのだと、リーバーが絶句する。しかし経路を考えている暇はない。コムイは素早く立ち上がると、無線機を手に取った。今、ここでの最高責任者は自分だ。指示を出さねばならない。そう思って背を向けた数秒後、

「オイっ馬鹿どこ行く気だ!!」

怒声に振り向けば、この場から走り去る少年たちの姿。コムイの脳裏に、十代目を探すために各地の任務へ参加させてほしいと言った獄寺の姿がよぎった。「まさか…」と血の気がひいていく。コムイは思わず叫んだ。

「リーバー班長!連れ戻して!」

「りょ、了解ッ」

珍しく悪態を吐きながら、コムイは再び無線機に手を伸ばす。彼らは限りなくグレーな存在だ。だが、どんなに問題を起こしても、あの子供達から悪意を感じたことは一度もなかった。だからこそ、本部の団員達も、甘んじてコムイの独断での保護を見逃している。そんな彼らを死なせたくは、ない。

(上手くやってくれよ…リーバー班長…!)

気持ちはこんなに急くのに動くことが出来ない自分に、歯噛みした。




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