繋がる空
31
一気に静まり帰った室内。
え、どうすんのこの状況?とラビが後ろを振り返れば、コムイが顎を外して絶句していた。温厚だと思っていた山本がブチキレた事が、余程ショックだったらしい。
「…………わり。ちょっと頭冷やしてくるわ」
そう言って、山本はラビの横をスッとすり抜け出ていった。
「ひ……ぶぇっ…」
ランボもショックを受けたのか、京子の腕の中で大人しく涙と鼻水を垂れ流していた。……汚い。
ランボの顔にブックマン師弟がドン引く中、獄寺が舌打ちを漏らした。先程のショックから立ち直れていないコムイが、過剰に反応する。仮にも室長だろ!とラビはツッコミかけて、やめた。アレはかなりショックだろう。
「……悪ィな、騒がしくして」
(((ええぇーーーっ!!?)))
ガシガシと頭を掻いた獄寺が言った言葉に、三人は心の中で叫んだ。嘘!あの獄寺が…山本じゃなくて(←重要)あの獄寺が……謝った…!
「コムイ…っつったか?話がある。ちょっと付き合え」
(やっぱり生意気ー!!)ガーン
しかし言い返せないのでコムイは了承の返事をした。だってダイナマイト恐い。ヨロヨロしながらコムイが部屋を出る。その後ろについた獄寺は「芝生頭も来い!」「何ィ!オレのボクシングの力を借りたいのかタコ頭!」「誰がボクシングするっつった!」と了平と言い争った後、ぼそりと呟いた。
「笹川、クローム、そいつ頼む」
うん、と京子とクロームが頷く。私達と遊ぼう?と微笑む二人に、ランボも涙を拭ってしがみついた。
††
で、ただ部屋に行って修羅場見せられただけの俺って何?
そうぼやくと同室のブックマンに「知らんわボケ」という冷たい言葉と共に積もりに積もった新聞紙の束を投げつけられたので、ラビは気晴らしに散歩に出かけた。因みに新聞紙を投げつけた直後、ブックマンは眠りについた。
「うー…さみ…」
冬が間近に迫った最近では、朝と夜がとても冷え込む。団服を着ていればあまり寒さは気にならないのだが、暫くは教団に留まる予定の為、今は団服を身に付けていない。寒さは容赦なく身体に突き刺さった。
―――ひゅん、ひゅん
部屋に戻ろうと踵を返した所で、何かが風を切る音が耳に入った。誰かが剣の稽古でもしているのだろうか。しかし、空気を力で叩き切るのではなく、軽く薙ぐ様な静かな音は、剣ではなく、刀のものである様に思える。教団で刀を使う人物は一人しか居ない…が、その人物は現在任務中のはずだ。
(帰ってきてんのか…?)
まさかとは思いつつも、窓から出て音の方へ向かう。しかし、木々の隙間から見えたのは、予想外の人物だった。
「確か、山本武……」
一瞬「ご乱心!?」と動揺したものの、刀の軌跡が洗練されたものであると気付き、様子を見守る。暗闇で時々月明かりを反射する瞳の色は鋭く、子供をなだめていたつい先程までと同一人物とは思えなかった。温厚だとコムイが言っていたことも疑わしい。
(いやでもティエドール元帥も温厚そうな顔して、戦ってる時はえげつな…)
「時雨蒼燕流、攻式八の型……」
「!?」
「―――篠突く雨!」
ズバババッ
「どわああああああ!!!」
突然自分に…正しくはラビの目の前に立っていた木に向かって飛んできた斬撃。咄嗟に飛び退いて尻餅をついたラビの足の間に、鋭くカットされた木の破片が突き刺さった。
「…………」
「す、すんません!人が居るの知らなかったんで!」
頭を掻きながらへらっと笑う山本を見て、ラビは戦慄が走った。なにこの子、超恐い!むしろ悪意が無い分ユウより恐い!