繋がる空
30
「あっ!室長さんだ」
三人が振り向くと、そこには兄妹…笹川京子と、その兄・了平が居た。
「や…やあ!」
「こんにちは!」
「おお、極限奇遇だな!オレ達に何か用か?」
「「!!」」
ニコニコと無邪気に笑う京子を見て、ラビとブックマンが唖然とする。そして素早くコムイの肩に腕を回すと、耳元で囁いた。
「(ちょ、コムイ。警戒されすぎて喋れないんじゃなかったんか?)」
「(いや、それは獄寺君が主であってこの子達は別に…ごにょごにょ)」
「(じゃあこの子から聞けばいいじゃん!)」
「(それが…いつもはクローム髑髏っていう女の子が居るから話しかけにくくて…)」
『うわあああ!』
『ばっ!やめろアホ牛!今10年バズーカ使ったら、どうなるか分からねェんだぞ!山本押さえろ!』
『うわっ!』
『ランボさん、飴あげるから…』
ドタバタと暴れる音。「10年バズーカ?」と顔を見合わせたコムイ達に対し、京子は楽しそうに笑った。
「ふふっ。ランボ君ったら、また獄寺君達に遊んで貰ってるんだね」
「極限オレも混ざりたいぞ!そしてボクシングだ!」
「お兄ちゃん、またボクシングばっかり!」
(((この兄妹天然ーー!!というか何故にボクシングーー!?)))
ついていけない三人は、呆然と部屋の前で立ち尽くした。何やら盛り上がっている兄妹達を前に、ブックマンがポンっとラビの肩を叩く。
「ラビ、行け」
獄寺達が居る部屋の扉を指差した。
「いや、俺喧嘩の仲裁に来た訳じゃねェんだけど…」
コムイにも無言で背中を押され、渋々扉を開けに向かうラビ。恐る恐る扉を開くと、丁度獄寺が牛柄でモジャモジャ頭の子供に拳骨を振り下ろす所だった。しかも変わった髪型をした少女が、胸にバズーカを抱えている。……シュールだ。
ゴッ!
「この馬鹿が!」
「うわあああ!獄寺のバカちんー!!」
「おい獄寺、やり過ぎだろ…」
山本に止められた獄寺が、ケッとランボを解放する。山本がわしゃわしゃと優しく頭を撫で回すと、ずびびっと鼻水すすって落ち着いた様だ。
「大丈夫か?」
「ぐず……ひっく……ナ…」
「菜?」
「うえっ……ツナー…ママァン…」
獄寺達が、目を見開いた。
扉を開いたラビも声を掛けるタイミングを見失い、黙って状況を見守る。 その横を京子と了平がすり抜けた。
「どうしたの?ランボ君」
「何だ?極限に拳での喧嘩か?」
未だズレた事を言っている了平は置いておく。
京子に抱き上げられたランボは、しがみついて泣きじゃくった。
「ランボさん、ツナん家帰る…んだもんね…!」
「ら、ランボ君…」
「ツナは獄寺みたいに怒ったりしないもんね!ツナとママンの所に行くー!」
暴れるランボと、必死に引き留める京子。了平はやっと状況が呑み込めてきたのか、真剣な表情で目を伏せている。
「(どうすんさ、この状況…!)」
「(知 ら ん わ)」
居たたまれなくなってラビがブックマンに助けを求めるが、丸投げされた。コムイは何か思う所があるのか、先程から黙りこくっている。
「ツナぁーー!ママァーン!」
「アホ牛、いい加減に……!」
――バアァァン!!
「………仕方ないだろ」
空気が、固まった。
獄寺達も、ラビ達も、その場に居た全員が呆然とその人物を見つめた。
「クロームだって、毎晩骸とツナを探してくれてる。でも見つからねぇんだ…………しょうがねェだろ!!」
「や、山本君…」
あの温厚そうな山本武が、壁を殴り付けていた。