がる空
19

チュンチュンという鳥の囀り。
穏やかな風が木々を揺らし、深緑の葉がぶつかり合って心地よい音を立てた。遠くからは、子供達が遊んでいるのか、少しトーンの高い声が響いてくる。
ぼんやりとした思考のまま瞼を開けば、途端に視界に広がったのは、抜ける様な青空。視線をずらせば、先程からさらさらと柔らかな音をたてる木の葉が、未だ微かに震えていた。頬を撫でる風の心地よさに、再び瞼を閉じようとした次の瞬間、綱吉は勢いよく飛び起きた。

「ってここどこーーーっ!?」

気付くのが遅い。
綱吉は顔を真っ青にしたが、取り敢えず…取り敢えず命の危険は無さそうなので、すぐ側に落ちていた鞄を拾い、恐る恐る歩き出した。空気は穏やかで、雲がゆったりと流れる空は、並盛で見たものと変わりはない。羽ばたきの音と共に小さな影が横切り、背後の空を振り仰げば、遠ざかる小鳥の更に向こう、太陽の光に目が眩んだ。
そこで、はたと、足が止まる。
危険を省みず自分にしがみつき、共に光に呑まれてしまったクロームは、無事だろうか。急に連絡が取れなくなった骸は?一人光に呑まれたランボは?商店街で消えた了平は、京子は?他の守護者の皆は?一度思い出してしまえば、次々と浮かんでくる不安。でも、だけど、大丈夫。だって、皆は、強い。今までだって、綱吉は仲間を信じて、これまで戦ってきたのだ。例えそれが未来であっても、友と拳を交える時であっても。そう思って、頭を振って悪い考えを振り払った。


ぞわり、

再び歩き出そうとすれば、肌が粟立つ様な感覚に教われた。これはきっと、悪寒。どうしようもない寒気に、無意識に身体が震えた。

「な、何だ…これ」

逃げ出したい。一刻も早く走り去ってしまいたいのに、足は悪寒の原因に近付く様に動き出した。嫌だと思っているのに、吸い寄せられるかの様に、前へ進む。

やがて見えて来たのは、緑がかった光。
そしてその光の前に佇む、一人の子供。

その光景を見た瞬間、綱吉の超直感がこれまでにない程の警鐘を鳴らした。アレに近付いてはいけない。決して関わるな、と。それにはっとして後ずされば、踏みしめた小枝がパキリッと高い音を立てて弾けた。

(うっそォォォォォーーー!!)

ガーン!と、綱吉の顔が真っ青になった。まさかこのタイミングで音を立てるなんて何やっちゃってんだ、自分!
頭を抱えて再び顔を上げれば、綱吉の立てた音に子供の影がピクリと反応を示し、振り返ろうとしていた。

「ち、違います!オレは、ぐぐ偶然通りかかっただけでして……!」

何で年下(多分)相手に敬語!?と自分にツッコミながら、綱吉は両手を振った。しかしその行動は、きっと逆に怪しまれる。

綱吉の姿をその碧眼に映した金髪の少年は、振り返りながら、にっこりと笑った。

「こんにちは」

そうすれば、少年の体の位置がずれた事によって、今までより強い光が綱吉の目に飛び込んできた。

光の中心に浮かぶ、小さな四角い立方体の様なそれを、少年の背後に見たその時。

綱吉の頭は、唐突に真っ白になった。




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