がる空
15

断末魔の叫び声をあげながら、最後の一体は幻覚の炎に焼き尽くされた。余りにも圧倒的な勝利に、唖然とする二人。しかし三叉槍を仕舞うカシャンという音にはっとする。了平が座っている分には支えが無くても大丈夫だと確認した京子は、恐怖で目尻に溜まった涙をそのままにクロームに駆け寄った。

「クロームちゃん…!」

「良かった。無事で…」

京子と手を握り合い、クロームもほっとしたように息を吐く。

しばらくして京子が落ち着いたのを確認したクロームは、了平の近くに屈み込んだ。その視線は、了平の血塗れの右拳に向けられている。

「晴の人…、ボンゴレギアを使わなかったの?」

「そのことなんだが…何故かボンゴレギアが無くなってしまったのだ!!」

その言葉に、クロームの眼が驚いた様に見開かれた。

「どうして…」

「それが極限に分からんのだ。商店街に居た時には確かに身に付けていた筈なのだが…。おお!?そういえばお前はボンゴレギアを使えたのか?」

「ううん。ボンゴレギアは骸様が持っていたから…。私は、骸様に貰ったこのリングを使ったの」

そう言いながら差し出されたクロームの右手には、藍色の宝石があしらわれたリングがあった。それを見て「なるほど…」と呟いた了平だったが、突然ハッとしたかの様に叫んだ。

「極限にここは何処なのだ!?オレと京子は、並盛商店街に居たハズだぞ!」

「気付いたらここに居たの。ねぇクロームちゃん、一体どうなってるの?」

極限わからーん!と頭を抱える了平と、不安げに瞳を揺らす京子。そんな二人に、クロームも目を伏せた。

「私にも分からない…。でも、骸様が最初に居なくなって、ボス達と合流したの。その後公園でボス達と話していたら、ボスの家の居候の子達が来て……そしたら、ランボさんが目の前で消えたの」

「何!?」

「ランボちゃんが?!」

「それから二手に別れて、ボスと私と犬と千種で、晴の人と京子を捜しに行こうとした。でも、すぐにハルが来て…」

――あなた達二人が、目の前で消えた…って。
それを聞いて、二人の顔色が変わった。その時の状況を思い出したのだ。商店街で了平が突如光に包まれ、京子が反射的に飛び付いたことを。

「むぅ…、取り敢えずオレと京子が商店街からここに移動してきた事は分かった!しかし、お前は何故その消えたオレ達と同じ場所にいるのだ?」

「……ハルが来てすぐに、今度はボスの足元が光って…。ボスはハルを突き飛ばして庇ったけど、私は咄嗟にしがみついて…」

でも…、とクロームの顔が悲しげに歪んだ。

「途中で気を失ってしまって…、ボスとは……。嵐の人達も、どうなったか分からない…」

震えるクロームを京子が抱きしめる。しかしその京子の顔も蒼白だった。クロームの話が本当なら、綱吉も、ランボも、恐らくは獄寺達だって、きっと今頃は自分達と同じ様に見知らぬ場所に飛ばされている筈だ。しかもあんなに恐ろしい怪物がいた。自分達もクロームが助けてくれなければ危なかった。一歩間違えれば命を落としていたかもしれない。京子は知っている。綱吉達は強い。それは自らも巻き込まれた未来での戦いで、痛いほどに分かった事だった。知っている。理解している。けれど、不安は抑えきれない。もしかしたら、もしかしたら。考えたくもないのに、そんな嫌な考えばかりが浮かぶ。



「……ぬおおぉぉぉお!極限んんん!!」

「「!?」」

突然叫んだ了平に、京子とクロームは驚いて肩を揺らした。見れば、了平は怪我などものともせずに両腕を振り上げ、雄叫びを上げている。

「一体何がどうなっているのかはオレには分からん!…しかし!ここでウジウジしていても始まらんぞ!はぐれたならば、まず沢田を極限に探せばよいではないか!」

一息にそう言い切った了平。一瞬呆然とした京子とクロームは、しかし次の瞬間思わず笑い出した。それに了平は疑問符を浮かべる。
了平の言った事は、はっきり言ってめちゃくちゃだ。自分達がどの位置にいるのかも把握できない程に広大な森。こんな状況で、どうやって正確な居場所も分からない綱吉を探せというのか。しかし、確かにここで落ち込んでいても仕方がない。綱吉を探すにしてもまずはここから移動しなければならないし、了平の傷の手当てもある。

「うん…そうだね!落ち込んでいたって、何も始まらないよ!」

笑って言った京子に、クロームも小さくうなずく。

不安が消えた訳ではないし、自らの拳で逆境を跳ね返した訳でもないが、いつも通りの極限に力強い言葉で京子とクロームの気持ちを浮上させた了平は、まさに晴の守護者だった。

「よし!そうと決まればさっそく…」

「晴の人、何か落ちた…」

了平のポケットからポロリと転がり落ちたそれを拾いあげるクローム。「あ、」と呟いたクロームにつられる様に、了平と京子はクロームの手の平をのぞきこんだ。

そこには見覚えのありすぎるリングと、小さな匣。


「何だとぉぉぉぉ!!?」


絶叫にも近い叫び声に、思わず耳を塞いだ京子の背後で、ガサリと茂みが音をたてた。




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