繋がる空
16
「…は?」
獄寺の言葉に、ポカンと口を開く山本。しかし顔を真っ青にした獄寺の様子に、まさかと胸元を探る。そこにあるはずのボンゴレギア、雨のネックレスを掴もうとした手は、空を切った。
「う、嘘だろ…」
ボンゴレギアは、守護者の証。言い換えれば綱吉の信頼、そして仲間の証ともいえるものだ。それが、あるはずの場所に無い。そんな事は有り得ないはずだ。だって自分達は確かに身に付けていた。
光に呑まれる、あの瞬間までは。
『おー?ガキが居るぞ!』
「「!!」」
殺気を感じて反射的に跳び退った二人。間を置かずしてその場所に銃弾がめり込んだ。大きな銃弾は、まるで大砲。思わず顔がひきつった。
『うわっ、避けた!』
『生意気ー』
『まぐれだろまぐれー』
銃撃をかわした獄寺と山本に興味を持ったのか、ぞろぞろと集まってくる何か。その数およそ十体。その内レベル2は四体で、残りはレベル1のアクマであるが、そんな事を二人が知るよしもない。
じりじりと後退る二人に、ボンゴレギアは無い。絶対絶命な状況で二人の頭によぎったのは、全く同じ考えだった。昼に綱吉の前に現れた少女や、その直後に消えた骸。その事を考えると、自分達があの正体不明の光に呑まれこの見知らぬ場所に飛ばされたのには、きっとその少女が絡んでいるに違いない。となれば、ボンゴレギアが無くなったことも、意図的なもののはず。そして、自分達の身で証明された通り、狙われたのは綱吉とその守護者である獄寺達のみ。アルコバレーノであるリボーンですら、あの光には弾かれてしまった。
これは確実に、ボンゴレ絡み。
「こりゃあ、…また野球はしばらくお預けだな」
頭の後ろで手を組んだ山本は、渇いた笑い声を漏らす。
「あたりめーだ、この野球バカが!」
果てな!といつの間にか着火したダイナマイトをアクマに投てきする獄寺の口には、これまたいつの間にか煙草がくわえられている。
『スッゲ!爆弾投げてきやがったぜコイツ!』
『効かないけどねーん』
「なに…!?」
爆発により発生した煙を突き破ってきた一体のアクマは、驚きに目を見開いた獄寺の目前に迫っていた。勝ち誇った様に拳を振り上げるアクマ。
しかし、その視界から獄寺の姿は突如消えた。
「おいおい、偉く丈夫だな……モスカ並みか?」
「てめっ…人を押し退けんじゃねえ!」
代わりに滑り込んで来たのは、山本が抜いた時雨金時の銀色に光る刀身。そのまま攻撃を受け止めようとした山本だったが、はっとした様に力を抜き、身を捩って攻撃を交わした。行き場を失ったアクマの拳が、地面を勢いよく砕く。
受け止めていれば、刀はいともたやすく折られていただろう。
『そんな棒切れ同然の刀なんかでオレ達アクマに勝てると思ったかぁ、人間んん!!』
「あ…悪、魔?…ぐあっ!」
突拍子もない言葉に呆気に取られた山本は、隙ありとばかりに攻撃してきたレベル2のアクマに蹴り飛ばされた。衝撃に息を詰まらせ、直ぐ様立ち上がろうと地面に手をついたその時、視界に光るものが映り込んだ。思わず目を見開き、それを掴みあげて、獄寺の姿を探す。
獄寺は山本より少し離れた位置で、アクマからの攻撃を爆煙を利用して紙一重でかわしていた。しかし、いつの間にか周囲を取り囲んだボール状の物体――レベル1のアクマに、その照準を合わされている。避ける事は不可能だ。
「獄寺!ポケットだ!!」
山本が叫んだのと同時に、無数の弾丸が獄寺に向けて撃ち込まれた。