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3:偶然は二度起きない
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以前、頭が弾き出していた世界最速の部外者を目の前にして悠々と何かの資料に目を通しているこの男と接触する確率。それはゼロに等しかったが、完全にゼロとは言えなかった。それを忘れていたのだ、このオレとしたことが。油断から生まれた偶然。「あっ、あんたが田中さんだね、ピースから話は聞いてるよ」「オレはフリー、どうぞよろしく」その気になればこっちは手元の紙束をあんたの瞬きよりも早く引き裂けるんだけどなあ、と、差し出した手に興味と愛想の欠片も無い目が印刷された文字を黙々と追っていくのを観察しながら思ったり。ただ危険視されていないだけなのか、それとも襲われない自信があるのか、または対抗と撃退が出来る力を持っているのか。残念ながらオレはフリーであってクリスではないので彼が考えていることは分からないけど、浮かんだ可能性の何れもに、あまり良い気はしない。「実はピースを捜しに来たんだけど、場所に心当たり、とか無いかな?」「心臓潰されちゃったみたいだからそろそろ連れ帰ろうと思ってさ」「ガスマスク越しじゃ聞こえにくいかな……」沈黙に若干の苛立ちが積まれていくのを、腕を組み考え事を消化しながら冷静に見詰めているオレが、何かに気付いた顔をして眉間に皺を寄せる。答えを察して溜め息。それが聞こえていたのか聞こえていなかったのか、いつの間にか動くのを止めた目が不服そうにオレを映している。そして、「ミスターピースの居場所は存じませんが、それを知る最有力候補ならあちらからやって来ますよ」と、だけ言うとすたすたと何処かへ行ってしまった。確かに目線が指した先からお楽しみ後のジャガーさんが曲がってきて、斬られたり折られたりした腕を数えている元気なピースを見付けれた。けれど目的を達成した筈のオレに蟠りが残っているのを無視は出来ない。次の偶然が起きた時は開口一番こう言ってやろう、もしオレが用意されていた歩むべき道を歩んでいたならきっとオレ達は似た者同士で出逢ったのは戦場だっただろうさと、ね。



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