華麗なる獣の復讐も兼ねた傍観生活 | ナノ


▼ vengeance:04

 真正面から見ると本当にイケメンだなー、好みではないけれど。
 大事なことだから二回言うよ。好みではないけれど。


 なんでここに中庭の主がいるかなんて正直どうでもいいんです。
 でも優子さん睨むのやめてー。初対面のひといきなり睨むのやめてー。
 復讐すっぞこら! 恨みは特にないけど、この一件で復讐すっぞこら!

「何してんだよ。ここは白狼の縄張りだ。他の奴が入れる場所じゃねぇぞ」
「え、あ、あの……」
「あ?」

 柄悪いな! もう不良系じゃなくてただの不良でしょ彼。
 っていうか、それならあなたもここに入れないからね。君も『他の奴』のくくりに入るからね。
 白狼の縄張り、って言ってるけど、結局その裏に『俺の縄張り』的なニュアンスがあるような気がするよ。
 すっごい睨み付けてる。誰だこの人のこと「ちょっぴり目つきが鋭いの」っていったの。あ、前の席の後藤さんか。
 ちょっぴりどころじゃないよ。かなりの間違いじゃないかなぁ。
 というかなんだい、その早く出てけ、みたいな視線は。いや君が後から来たんだからね!

「部外者はとっとと出てけ」
「グルルゥ……!」

 いやお前が出ていけ!
 優子さんの前に立ちはだかって吠える。獣になっての初吠えがこんなことになるなんて。
 「ばかわいい」っていったの許してないんだからな。可愛いのは認めるけど、ばかが頭に着くのは認めない。
 断じて馬鹿じゃないから。頭はよかったよ。生前の進学テスト主席だったからね。うん、内申点って大事。
 ぐっと目に力をいれて彼を睨み付ける。後ろで息をのむような音が耳まで届いた。たぶん優子さんだ。

「な、んで、白狼がっ!?」
「ぐるるっ」
「だめだよ、うた! 吠えちゃ駄目だってば……っ」

 優子さんは下がってて! と心中で叫ぶ。
 こういうのは顔じゃないんだ。迫力で勝負するんだよ。
 この学園の生徒にとって白狼っていうのは、いわば守護者。学業から愛情・家族愛・恋愛の守護者としても知られている。
 古くからこの学園に住まう白狼という存在は、学園生にとって高貴で自由の象徴。彼らが縄張りと定めた場所は、学園生にとって聖域。
 本来優子さんのように長時間いることはめったにない。例外として、学園長のように白狼父(おとうさん)と仲良くなったひとはいれる。
 別に通りすがりだったり、5分だったらいれるのだ。ただ、10分超えると白狼父(おとうさん)がやってきて追い返されるだけ。
 うちの学校の昼休みは昼食時間も入っているから、1時間と結構長い。
 この時間にはもちろん、次の授業の準備や移動も含まれているから、ちょうど1時間後には教室にいなればいけないんだけどね。
 近くにある時計塔をみれば、昼休み終了のちょうど15分前。つまり45分間この場所にいるということ。
 それでも白狼父(おとうさん)に追い返されないのは、単に私の友人として認識されているからだ。
 だが不良系イケメン、テメェは別だ。
 私の友達いじめてんなよ! 黄色い色の例のアレを君の画面にかけるよ!
 優子さんが撫でてくれてるからって許すとでも思ってるのかい。
 そんな驚愕しました、っていう顔しても無理ですよー。あれ、なんか震えてない?

「おまえ、なんで、白狼がさわれて……」
「うたは、わたしの友達なので。今日は学園長の許可をもらって、こうしてここでうたと食べていたんです」
「うた? な、名前まで付けてんのかテメェ! 」
「わっ!? いやわたしじゃなくて学園長が、」

 およ?
 なんか彼の様子が……。
 ま、まさかだとは思うけど、彼ってば……

「なんで、なんで途中から入ってきたお前が」
「あ、の?」

 彼は俯いて拳を震わせる。
 声もつぶやくような感じで、どこか低い。
 ありゃー、聞いたことあるけど、本当にいたんだね。っていうか、彼も学園長タイプだったか。

「お、俺だって、俺だって毎日勉強して位もとって、面倒な生徒会にも入ったのに……! 縄張りだって中庭にして、みとめて、もらおうとっ!」

 白狼は、この学園の一部生徒には熱狂的に愛されている。
 その愛らしい姿はさることながら、その高貴で堂々とした様がダントツの人気なのだ。
 白狼の近くに寄れたり、その縄張りに長時間いる、というのは、つまり白狼に認められたということ。白狼に認められるといのは、優秀な生徒であることだ。
 そういえば学園長も、学園生時代は白狼に認められてこの縄張りで勉強してたとか。
 私は優子さんが優秀とかどうとかで仲良くなったわけではないけど、結果的にはそう見えるのだろうか。

「なんで転入したてのお前がっ」
「ワう」

 単に白狼父(おとうさん)が男子生徒を毛嫌いしてるだけなんだけどね。
 いやー、前に面白がって遊びにきた外部性の男子生徒がいたんだけど、見つけた瞬間吠えまくり。
 外部生だからかなぁ、って思ってたけど、あとから止めに来た内部生にも吠えまくってたのをみて、ああ白狼父(おとうさん)ってば男子生徒が嫌いなだけか、って思ったね。
 だから別に彼が優秀じゃない、といわけじゃなくて。白狼父(おとうさん)の女性優先がなー。
 なんかだんだん哀れになってきたなー。縋り付くような目を向けられるとなおさら。
 あと気の所為かも知れないんだけど、彼が私をちらっちらっと見ながら触りたそうにしてるんだよね。
 やっぱり学園長タイプなのかな。うん。

「くぅーん」

 ものは試しだもんなぁ。
 優子さんが微笑まし気な顔してる。気づいたのかな。

「え、な、なにっ、を、」

 いやごめん、ごまかしきれてないって言うか、なんていうか。
 あのー、不良系イケメンさん、気づいてるのかな。自分がデレデレした顔してんの。

「好き、なんですか?」
「は、はぁ!? なにが!?」 
「いえですから、あの、白狼(いぬ)が」
「べ、べべべべ別に好きじゃねぇし! お、俺にそんな子供っぽい趣味はねぇ!」

 いや別に犬好きは老若男女かかわらずあるよ。
 あの学園長も、見た目は仏頂面でちょっと怖いけど、ばかわいいって呟くくらいの犬好きだよ? あの顔でデレデレしてたからね。
 あれー、なんだろう。ちょっと面白くなってきた。

「わフんっ!」
「わぁっ!」

 白狼になってから身に着けた必達技。その名も頭突き!
 やっぱりぽふっ、て効果音しかつかないけど、彼にはずいぶんなダメージがあったみたいだ。
 私のもふもふした身体を、たぶん無意識だけどまさぐってる。……本当に言葉にするだけだと卑猥だな、まさぐる、って。
 優子さんは目を真ん丸にしてて、ちょっと笑ってる。楽しそうな笑顔だ。

 キーンコーンカーンコーン

 ……チャイムだ。昼休み終了あーんど五限目の授業開始、だね。

「ど、どうしよう! サボっちゃった!」
「やべ、次の授業ミニテストだ!」

 ドンマイ、としか言いようがないよね。
 二人は顔を見合わせて深く息を吐いた。本当にドンマイ。




 あの後結局授業をサボってしまった二人。
 お互い顔を見合わせてため息を吐いたかと思うと、途端に笑い出した。
 いまだに彼に飛びついたままの私を、彼は器用に抱えながら芝生の上に座った。さっきの不良っぽさが嘘みたいな笑顔だ。
 なにこのいきなりの変化。ごめん正直ついていけない。

「……まあ、なんだ。さっきはいきなり悪かったな。向こうでごたついてたからイライラしてたんだよ。ほんと悪かった」
「いや! いいよ。あなたは何もしてないわけなんですから」
「日向、だっけ? はずせよ、敬語」
「え?」
「だから、敬語はずせよ。同級生だからさ、俺も」
「え、あ、はい! じゃなくて、うん! ありがとう、えっと、」
「轟(ごう)。御子紫(みこしば)轟(ごう)だ。好きに呼べよ」
「うん。ありがとう。み、御子紫くん」
「おう」
「へへ」
「……なんだよ、いきなり笑い出して」
「あ、いや! なんか友達みたいだなーって」
「は? 友達だろーが。それともなにか、俺じゃ不満ってか」
「違うよ! 嬉しいよ、ありがとう」

 ……ごめん。一言いい?
 これなんて青春ラブコメ?
 彼、ってか御子紫くんの変化激しすぎだろ。なにこの爽やか路線へのチェンジ。
 いやあ、御子紫くんが女子相手にここまで穏やかな表情してるの初めて見たよ。姫島さんの時はただただ不機嫌そうだったけど、優子さんの前だと何この子すごい笑顔。
 うーん、この笑顔みると姫島さんご苦労様、って思うっちゃうね。
 いや本当にざまあみろ、っていうか、殺された側としては彼女のちょっとした不幸は万々歳なんだけど。
 姫島さんの発言をこうして思い出すと、彼女にとっては自分は「世界のヒロイン」で、副会長や御子紫くんのようなイケメンさんは「私のヒーロー」みたいな感じなのかもしれない。
 あくまで想像の話だけどね。
 そんな彼女にとってのヒーローが、こうして彼女が敵視する優子さんと仲良くなっていくって、姫島さんはどんな気持ちなんだろうね。

 あ。良い復讐方法、思いついちゃった。

「キャぅ!」

 いやー、この復讐方法がささやかの範囲内に入るかは疑問だけど、自分としてはささやかだからなぁ。
 人間って、自分が狙ってる獲物を取られたらすっごく悔しい思いするよね。それが、とても野心的で欲が強い人ならなおさら。
 しかもそれが自分より下だ、って思い込んでいた人に取られたら、ねぇ
 私はね、復讐したいんだ。殺されて、なんの謝罪もなかった。そもそも殺した自覚がなくて、さらには別の人まで追い込んでいる。
 そんな人を許せるほど、寛大でもないし能天気でもないんだ。むしろ執念深い。復讐しないなんて、この獣生でも絶対にまっとうに死ねない。
 あとは、優子さんの幸せを祈ってるからかな。
 ここで優子さんにとって一生涯になるかもしれないパートナーが見つかったら、一石二鳥だよね。彼女には幸せになってほしいんだ。
 何の縁か、私の席に座り私の部屋を使い、私に関する何を持ってる彼女。何故かほっておけない。
 真面目で穏やか、そんな優子さんが幸せになって、さらには姫島さんがちょっぴり不幸になるなんて、いいじゃない。
 最高の復讐方法だと思うんだよね。

 最高の復讐方法、姫島さんからありとあらゆる手段を用いてイケメンひいては彼女が望む美形を引き離しましょう大作戦、始動!
 引き離すだけで、彼女を嫌われ者にする気はないけどね。
 だってほら、当初の目的は「ささやかな、でもあとからじわじわくる復讐」だからさ。
 いやあ、他人のラブコメみるって、結構ダメージあるよね。

「ワォオーンっ」
「ぅおっ! 何だこいつ、すげぇ元気いいな」
「機嫌よさそうだね。御子紫くんが動物好きだって、伝わってるのかな」
「ばっ、だから動物好きじゃねぇって!」

 ……イチャつくなら他所でやれっ!
 こちとら告白前に死んだんだぞこらっ! くそう、一生仲良くしてろっ。


「あー! ここにいたの? もう、サボっちゃダメじゃん、轟ったら!」
「はぁ? またテメェかよ」

 災難は忘れたころにやってくる、第二弾ですかコノヤロー。

 御子紫くんの表情が狂暴なものに変わって、さらには機嫌まで最悪になってしまったじゃないか。
 後ろの優子さんの息をのむような声が聴こえねぇってか! というか姫島さんもサボりじゃないですかーやだー。
 まあ、もうすぐで五限目のチャイムなりますけどね。
 10分の間に出ていった方がいいよ。白狼父(おとうさん)来るから。

「あっれー、日向さんだー! なんでここにいるの? ねぇ、轟! その子私のこと苛めるんだよ。だからそんな子と一緒にいないで、こっち来てよ!」
「苛め? 馬鹿言ってんじゃねぇぞ。どんな理由でコイツがお前を苛めんだよ。それに、たとえ本当だとしても、誰とつるもうが俺の勝手だろうが」
「さ、さっきだってねぇ、私の下駄箱荒らされたの! 上履きぐっちゃぐちゃだったんだから!」
「あ? それいつのことだよ?」

 あ、これは私やってないわー。
 今日の散歩中は、姫島さんの持ち物見たら絶対に復讐しちゃうなーって思って控えてたんだ。
 しっかし、私以外に誰が姫島さんに復讐したんだろうね。いやー、その人に会いたいわー。

「お昼休みだよ! もう、そのせいで先生に怒られちゃった」

 いや先生に怒られたってことは君が悪いんでない? ともう一人の自分が言いそうにしてるけどこの身体じゃ言えないわけでして。
 って、お昼休み? お昼休みなら、優子さんはアリバイあるね。私とずっと一緒にいたし。
 犬でアリバイになるのかなー、って思うけど、この学園の白狼にかける信頼は絶大だし、聞き入れてくれるかも。
 姫島さんは猛反対するかもねー。

「昼休みねぇ、それなら日向は違ぇな」
「え、な、なんでっ」
「昼休みはコイツ、ずっとここにいたからなぁ。白狼が証拠になるだろ」
「なにいって、え、はく、ろう? はくろう、白狼!」

 わ、白狼って聞いた瞬間に目が輝いた。っていうかギラついた。
 何この利用しよう感。良い道具みつけたー、みたいな表情。隠しきれてないよ姫島さん。

「白狼だー! 可愛いねぇ。ねぇ、轟、あたし白狼好きなんだー。ね、あたしにも触らせて!」
「駄目にきまって、」
「駄目です!」
「はー? 日向さんには聞いてないんだけど」
「だ、駄目なんです!」

 優子さん……。
 なんか視界が滲んできた。私も触られたくないよ。
 姫島さんの伸び切った爪、というかつけ爪っていうんだっけ? 凄いデコレーションした爪。
 あんな爪で触られたら終わりだよ! 私の毛ってもふもふで、でもすごく繊細なんだ。
 鋭い爪で触られたら裂ける! とまでは言わないけど、確実に傷がつくからね。いやまあ、優しい持ち方で気を付けてくれるなら大丈夫なんだろうけど……。
 ん? あれ、あの黒いのって、まさか。

「っはー。とにかくさ、お前にとやかく言われる筋合いはねぇの。俺の自由にしたって、あ、」
「何してんだ、お前らは。ココは白狼の縄張りだぞ、って、日向に、御子紫? なにやってんだ」

 学園長はいりましたー。
 すごいよ美形がかなり揃ったよ。なにこの場所。
 いやー、不良系イケメンの腕の中にいる私はかなりうはうはだけどな。好みではないけれど。

「グゥー」

 あ、おやつの時間だ。
 って、これってまさかの絶好の復讐時間じゃないの?
 よし、おやつ食べてから始めよう。

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