02
 隣人に赤ん坊が生まれたのは、三成が8歳のときだった。
 マンションの隣同士、母親同士に少なくない交流があったから、その数日後には病院へと連れ出された三成を待っていたのは、全身を苛む痛みである。柔らかな白に包まれて眠る赤ん坊が、ふとその目蓋を開けた瞬間、三成の身体をあらゆる痛みが貫いた。それは切り裂かれたような痛みであり、打ち付けられたような痛みであり――それでいて正しく形容する言葉さえも持たぬような、そういう痛みであった。
 立ち竦んだまま、三成は瞬きさえ忘れた。食い入るように見詰める先に、いつか見た、煌々しい山吹がある。
 嗚呼、と思う。見覚えなど無いというのに、痛みのような鮮烈さで、全身は叫ぶように言うのだ。日溜まりの色だ。陽を一心に浴びる花の色だ。自分達の中で唯一同系統であった色だ。知らずとも知っている、脳の髄から刻みつけた、此の身を焼いた仄暗い炎の色さえ、今の今まで知らずに生きていた三成は、ふと諒解する。

 例え三成が知らずとも、三成は赤ん坊の名を知っている。

 それは色鮮やかに網膜に焼き付いたまま離れない朗らかな笑みのようであり、頬に触れた堅い手のひらの温度のようでもある。その全てを、いつか心を引き裂き蹂躙した男の名を、三成は知っている。――少しだけ、思い出した。

「    、?」

 いつか、三成を二度殺した、憎かったかつての男は、笑みもしない三成に泣き声を上げた。9年前のことだ。


 


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