うとうとと浅いような深いような眠りの中で、何度か目が覚めた気がした。数度の目覚めの中で、ふと決定的に意識が覚醒する。眼前には、同じベッドで眠る虎徹さんの顔があった。
「……こてつ、さん?」
微睡みのなかで小さく呼んだだけなのに、虎徹さんの瞼がぱちりと開いたものだから、逆に驚いて肩が跳ねてしまった。そんな僕の様子に、虎徹さんがくすくすと笑う。「今の、小動物っぽかったぜバニー、」揶揄するような、寝起きで掠れた声の、しかし優しいことといったら。
横向きで突き合わせた顔が、すっと近くに寄せられる。吐息が感じられるほど間近で笑う虎徹さんに、僕は口を開いた。
「あの、さっき、変なこと言ってごめんなさい。」
「変なこと?」
「傷が、どうとか。」
きょとんと僕を見返した顔に、あれと思う。夢だったのだろうか。いやにリアルな、夢だったと思うのだけれど。不思議に思う僕に気付いたのか、虎徹さんの手のひらが、僕の頬を撫でた。小さく呼ばれて、息を吐くままの小さな音で返事をする。
「別に変なことじゃないだろ?」
「そっちですか、」
「やっぱ、傷ぐらい付けてやれば良かったかなあって、さっきからずっと思ってたんだ。」
あなたがそんな、めずらしいですね。開ききらない重い瞼でゆっくりと瞬きをしながら言うと、やはり虎徹さんはくすくす笑った。だって、嬉しいだろうと、そんな言い方をするから僕はまた拗ねたような気持ちになる。「冗談だ。」呆れたような笑い方で虎徹さんは言って、それから少し、真剣な顔をした。
「でも深い傷なんてバニーにはやれないしなあ。小さな傷でも、毎日同じところに付けてれば残るんじゃねぇのかなあ……」
うんうん唸るように考えながら僕を真っ直ぐに見る虎徹さんの明るく暖かい色の瞳が、薄暗い室内に鮮やかだ。頬に添えられたままの手のひらが、するすると位置を下へと変える。首筋をまるで猫にするみたいに撫でてから、また少し、今度は押し殺したように虎徹さんは笑った。無防備だなあと、良く分からない理由で。
「お前ばかりおかしなことを考えてるって、思ってるんだろう。」
目が眩むような、執着心ばかりが先立つような愛だった。それを言葉にせずとも振りかざす僕に、曖昧に笑ってみせるのはいつも虎徹さんだというのに、そんなことを甘く囁いてみせる。彼はいつも正しい言葉を言うのだ。それはもう僕の真理だった。彼の言葉が、何時だって僕を生かすのだった。
「俺だってな、なかなか色々考えてるんだぜ?」
「……こてつさん、僕はひとつ、聞きたいことがあって、」
どうしたバーナビー、とゆっくり紡がれる僕の名前は、他人のもののように聞こえる。人を戯れに揶揄するときの彼の声は、それでももうどうにも行き場がないくらいに優しい。
首に添えられた手のひらに、自分の手を重ねて、我ながら祈るようにささやかな言葉の吐き出し方だった。
「――僕のこと、好きですか?」
そうしてそれは、ちゃんと、僕と同じかたちですか。呼吸を繋いでくれるような、生きていくに不可欠な、そういうものですか。
ずっと音にしてこなかった、沢山の言葉と言葉を結べないままに、僕の目覚めは訪れるのだった。ぱちりと。瞬き、ひとつ。