ぱち、り。
 瞬きを1つしただけのつもりだったのに、気付くと朝だった。昨晩の倦怠感は大分改善され、体は軽い。隣に彼は寝ていなかった。瞬きひとつで消えてしまって、幻みたいだ。
 コーヒーを片手に寝室に入ってきた虎徹さんが、上半身を起こした僕を見て「おはようさん、」と明るい声を投げてくる。調子はどうだとか、夢見はどうだったかとか、朝食は食べられるかだとか、そういう僕を気遣う言葉の数々に曖昧に笑ってみせた。昨晩のどれかが、夢だったのだろうか。朦朧とした頭で、沢山のことを考えた夜だったように思う。

「あの、こてつさん、」

 パンとかならすぐ用意出来るなと笑う彼を追い掛けるようにベッドから下りて、僕は彼を呼んだ。コーヒーに口を付けた彼が、首を傾げながら目を細めた。

「――ぼくのこと、すきです、か。」
「どうした、いきなり?」
「僕は、貴方との永遠が欲しいくらい、貴方のことがすきです。」
「朝一番にかわいいこと言うなあ、」

 間抜けな音を立てて、虎徹さんがコーヒーを啜る。マグカップを持っていない方の手が、少し乱暴に僕の髪を撫で回した。ぐしゃぐしゃと乱された髪の毛に、慈しむみたいな目をした虎徹さんが、微笑みながら息を吐く。

「好きだよ。言わなくても知ってるだろ?」
「それは、僕と同じかたちですか?」

 きょとんと再び首を傾げた虎徹さんが、かたち、と繰り返した。

「同情ですか。優しい大人の、慈しみ、ですか。」

 幼い僕の問い掛けに返ってきたのが、想像していたよりもずっと流暢な笑い方だったから、僕はいよいよどれが現実だったのか分からなくなる。――だって、瞬きひとつの少し前に、彼はとても抉られたような顔をしていたのだ。すきですか。そう尋ねた、たったそれだけの言葉を、どうして求めるのかと責めるようでさえあった。愛だよ。稍あって、虎徹さんの唇が、嘘のようにゆっくり動く。大事そうに抱え込むような、丁寧な言葉の紡ぎ方だった。
 愛だよバニー、

「俺はお前を、正しい動作で、傷付けてやりたい。」

 空になったマグカップを一瞥して、慈愛に満ちた、口角の上げ方で。永遠を探す子供のように、心許ない、視線のさまよい方をして。

「お前のそれも、俺のこれも、人は愛って呼んでくれるんだぞ。」

 あたまのおかしい話だろって、彼はそう言って、僕を抱き締めたのだった。



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