「塾が終わったら私の部屋に来て下さいね☆」
そう言って朝に手渡された鍵をじいっと見つめる。
俺と理事長ことメフィストは所謂恋人同士だ。
勿論周りには秘密。メフィストは悪魔で俺は人間。祓魔師を目指して日々勉強中だ。いつしか苦しい選択が待っているかもしれない。そう理解した上で、関係を続けている。
根暗と分類される俺が何故メフィストと結ばれたのかは今でも分からない。
俺の何処を好きになったのか効いても全部だと答えられたから詳細は不明だ。…嬉しかったけど。
付き合いも割と続いていて、正十字学園に入学したばかりの頃には想像も出来なかったくらいの溺愛ぶりだ。
そんなメフィストの部屋に行くのは初めてだった。
少し緊張した手で適当な鍵穴に差し込み、回す。この動作だけで手が震えた。
ゆっくりと扉を開けると、中にはメフィストとその隣で和菓子を口いっぱいに入れようとする緑がいた。
「っ名前!来てくれたんですね…!」
「あ、うん…」
あ、メフィスト浴衣着てる。…変な柄の。
俺を見るなり立ち上がってこっちに来るメフィスト。浴衣の柄がひたすらひらがなで゙ゆかだって書いてあるのはどうなんだろう…。
「名前が来るの凄く楽しみに待ってたんですよ☆」
「あ、ありがとう…。少し塾が長引いて…」
「そうですか。ではお掛け下さい」
メフィストは楽しげに俺をソファに座らせると、その隣にぽすんと座った。
「兄上」
そんな時、和菓子を堪能していた緑が喋りだした。
「…お前はさっさと帰れ、アマイモン」
「兄上、そいつは何ですか」
「人の話を聞け」
兄上。確かにこの緑はそう言った。という事はメフィストの弟なんだろうか。確かに似ている…特に目が。
「もう用は済んだだろう。さっさと虚無界に帰れ」
「嫌です。そいつは何ですか」
「私の恋人だ」
「!!」
恋人と告げた瞬間にメフィストとよく似た目を見開き、動きを止める。そして俺をじろりと睨んだ。
「…兄上は渡さない」
「え、」
「脆くてへなちょこな人間に兄上は渡しません」
「アマイモン!」
これは宣戦布告、なのか?
初対面でいきなり睨まれても、どうしようも出来ない。確かに悪魔と比べて人間なんか脆い存在だろうし。
「……俺は、」
何も言い返さない俺に不安を感じたのか、メフィストは拳を強く握っている。俺が小さく声を発するとぴくんと肩が揺れた。
「俺は…例え肉親だろうと…認めてもらえなくても構わない」
「…弱いくせに兄上と一緒にいるのは馬鹿です」
「そんなの分かってる…。この先が幸せだけじゃないのも…分かってる。でも少なからずメフィストを物扱いする奴よりはメフィストの事が…好き、だ」
「…っ名前、」
俺の言葉に腹を立てた弟は襲いかかろうとしたがメフィストによってそれは適わなかった。
「アインス、ツヴァイ、ドライ☆」
「兄上ェ!」
聞き慣れた言葉を紡ぐと、弟の真下に出来たファンシーな扉が開き、弟は呑まれていった。
「…よ、良かったのか?」
「ええ、死にはしません」
たった今の事は無かったかのように振る舞うメフィストに呆れて溜め息が出る。再び隣に座ったメフィストは少しだけ頬を染めて顔を近づけた。
「…さっきの言葉、嬉しかったですよ」
「……ん、」
「私も名前が好きです」
「…うん」
この先どうなるかなんて分からない。
ただ、この幸せがずっと続けばいいと、メフィストとのキスに酔いしれながら願った。
end
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地味な子が少しだけ頑張った話。果たしてこれはリク通りなんだろうか…。←
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