※依存症夢主




今日の仕事が終わり、疲れを自覚する前に早口で呪文を唱えて自室に移動する。部屋を見渡すも、目的の人物はいない。
ならば寝室かと足早に向かう。

「名前」

寝室の扉を開けると、予想通りの形で見つけた。
大きなベッドに籠もりうずくまる愛しい存在。名前を呼ぶと目にも留まらぬ早さでタックルを…ではなく抱きついてきた。
少々苦しいが、そこはまあ許そう。

「ただいま帰りましたよ」
「お帰り。あと少しでも遅かったら死んでたかも」
「真っ先に帰ってこれて良かったです」
「半日近く離れてたんだ…もう無理、嫌だ」

私の腕の中で小さく震えるこの愛しい存在は悪魔であり、私の恋人でもある。
私と同じく人に取り憑いた悪魔だが、他の悪魔とは決定的に違う所がある。

それはこの臆病な性格。
物質界にも虚無界にも多種多様、様々な悪魔がいるが、殆どは理性が無かったり凶暴だったりする。
しかし名前は下級悪魔はおろか、人間よりも臆病だ。

悪魔、人間など関係なく周りに恐怖を抱いている。
特に祓魔師には。

本人曰わく、「何もしていないのに襲われるから」らしい。

そんな名前を保護し、唯一心を許せる相手が私なのだ。

これほど素晴らしい事は果たして他にあるだろうか?

愛してやまない恋人が、唯一恐怖を抱く事なく、見つめ合え、触れ合える相手が私ただ一人のみ。


「メフィスト…メフィスト…好きだ、愛してる…」
「ああ…名前、私も愛していますよ」

名前をこの自室に閉じ込めたのは正解だった。文字通り名前はこの数年間私以外誰の目にも触れていない。


「メフィスト…」
「ん…、はふ…う…」
「は、メフィスト…愛してる…ずっと、俺だけの側にいて…」
「っ名前…んう…あ、」

半日近くの孤独を埋めたいのか、名前は噛みつくように私の口内を荒らす。
毎度帰宅する度に繰り返される獣のような荒々しいキスに、私も満たされていく。

「メフィスト…いつまでも一緒にいて…」


間近で見つめる名前の瞳に狂気がどろどろと渦巻いている。
背筋が小さく震える。

それは恐怖など微塵もなく、ただ歓喜だけが全身を駆け巡り、埋め尽くした。





end


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