【2021年 12月23日】


 ついに兵部の超能力中枢は完全に動きを止めた。

 こうなると、死まで後一歩手前という事らしい。そうだろうな。だってそれは超能力者達の第二の心臓のようなものだから。僕も超能力研究者の端くれだ。そんなこと、とっくに知っていたんだ。

 そんな状態でも、兵部はよく少し前の兵部に戻る。いや、こうなってから頻度が増えた。一日に2,3回くらいは戻る。
 で、やはり毎回「ここは何処だ?」と聞くのである。しかし、今までは僕の存在を認識した瞬間に直っていたのが、今は僕を僕と認識できないからか暫くはそのまま。よって返事をするしかない。無視をするのは流石に少し忍びないし。

 そのため僕は、ヘリウムガスを常備するようにした。兵部が「ここは何処だ?」となったらいつでも声をかえて「病院、お前は今、入院中」なんて嘘を吐けるようにしている。
 だって僕は、彼を介護しているのが僕だと、彼に知られたくない。彼がいくらその時の事をすぐ忘れてしまうのだとしても、だ。

 そう、こうやって会話するようになってから気が付いたが、どうも彼はその時その時で記憶がリセットされているらしい。この状況に陥る度、彼が繰り返し繰り返し何度も同じことを言う事から推測できる。彼は、こうなる度に『何処か知らない場所に急に放り出された、あの兵部京介』の状態になっている。

 その事に僕は酷く安堵している。僕は、彼を看取るのが僕だと彼自身にバレるのが、怖い。それがたとえ一瞬の出来事だとしても、すぐに忘れてしまうのだとしても、彼の死よりも、ずっとずっと、怖い。そう、きっと、そう。





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