【2021年 6月3日】


 よしよしよし。よしよしよしよし。

 やったぞ、やった! ようやっとだ! ようやっと、兵部が言葉を覚えた。まあ、といってもたった一つの単語だけなのだけれども。

 でも、これでも充分な進歩だ。鉛筆はかじるし、練習用のノートも真っ黒に塗りつぶしたりなんてするから、正直難しいかもしれないと思っていた。全く成長しないどころか、成長するつもりもないのではないか、という程の調子だったおかげで教える喜びも楽しみもへったくれもなかったし。これで徘徊だとかそんな老人要素までが加わっていたら、いくらこの僕でも全てを投げ出してた。

 しかし、覚えた。覚えたぞ。ああ、兵部が呼んでいる。「みなもと」って、たどたどしく、ちっちゃな声で呼んでいる。またドアの開け方を忘れちゃったのか? あれだけ教えたのに。

 ふふふ、そうだよな。今の兵部は、僕が居なかれば何をどうする事もできないのだから!





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