【2021年 5月15日】
すごいぞ兵部。本当にお前のすることはなんでも予想外だ。まさかこんな状態になっても、こうやって驚かされるとは思わなかった。
女王、女王、うるさいんだよ。お前は初めて会った時の京介か? いや、そもそも平常時のお前もいつもこうだったか?
「たいちょう」の次は「くいーん」か。せっかくそっちは言わなくなったと思ってたのにな。それら以外にはあうあう、うあうあとしか言えないとは。一体、今のお前の脳みそには何が詰まっているんだか……ん?
……言えない、のか?
そうか。それもそうだ。教えてないのだから。彼の脳裏に刻まれたもので、それを音として認識できるものは「たいちょう」と「くいーん」の二つだけだっというわけで。それ以外は、少なくとも言葉にできるものではなかった、と。
……ああ、僕は本当に認識が甘かった。赤子が保護者へと、自分の知っている言葉だけを繰り返し繰り返してコミュニケーションを図ろうとしていたようなものだったのだ、これは。知っている言葉がこれだけ、というのもなんとも言えないが、まあ、それは置いておいて。
彼には、少し悪いことをしてしまったな。まさかこんな単純な事に気付くのに一週間もかかるなんて。にしても、僕も兵部に罪悪感を抱くことがあったのか。少し意外だ。なんたって、あんな犬猿の仲というのにも歯噛みするような、そんな関係だったというのに。
まあ、そんなことは後でいい。ひとまず、早く口のガムテープを剥がしてやろう。
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