*ちょっと痛い。
【気まぐれ】
「そういえばさ」
坊ちゃんがふと、声をかけた。
「なんだ」
こちらとしてはあまり施術中に話しかけないで貰いたい所だが。こちとら背中がめっちゃ痛くて大変なのだ。いつもの様に麻酔なんざもしていないから脂汗だってダラダラだ。
「君は確か、生体コントロールが使えるよね」
「ああ、まあね」
おや、そんな事か。これ位、僕についての資料をちょっと調べたくらいで分かるだろうに。
「という事は、この前貰った臓器ももう治っているんだ?」
あ、いやな予感。
「……まあ、そうだが」
「ふうん……」
坊やは手を止め、少々考え事をし始めた。背にぬるりとした感触が伝う。これは脂汗でも血液でもない。
「それが、どうかしたか」
冷や汗だ。
「いや、それならもうちょっとしっかりやっても大丈夫かな、って」
やはりな。もうちょっとしっかり、って何だ。どの程度の事なんだ。もうちょっと、って。しっかり、って。
「……僕にも限界はあるし、寿命も縮まるからあまりお勧めはしない」
というか、まず今のお前との問答で既に縮まっているよ。多分十年くらい。
「なんだ、それは残念」
そう言って彼はまた手を進めだした。おや、意外。案外諦めが早かった。常ならば長時間の説得を必要とするのに。
会話が途切れると、途端に肉を裂く焼き付くような痛みが走った。ち、さっきまではいい感じに気が紛れていたのだがな。
……ん、待てよ。
「もしかして、気を散らせようとしていたのか」
ふと思い当たった事を聞いてみる。
「まあね」
答えは肯定の意。なんだ気違いの癖に気遣いやがって。
「……どうも」
「別に」
今度こそ会話は完全に途切れた。しかし痛みは少しだけ和らいだ気がする。坊や、おまえの優しさは少し分かり難すぎるよ。
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