【アンハッピーハロウィン】


「Trick or Treat!」

 さて。

「…………」

 今、僕の前にはかぼちゃのお化けがいる。

「Trick or Treat!!」
「……坊っちゃん」

 まあ普通に考えて、くり抜いたかぼちゃを被ったあのイカれた坊やなのだが。

「Trick or Treat!!!」
「監禁されている僕が、お菓子を持っていると思うかい?」

 だんだんうるさくなってきたので釘を刺す。わざわざ声量上げていかずとも聞こえているわ。普段の食べ物すらお前に与えられている身の僕に、一体どうしろと言うのだ。

「Trick or Tre……ゲホッ、それもそうだったね」

 こいつむせてやがる。被り物の中で声を張り上げるのは、そんなに体に堪えたか。この虚弱体質野郎め。加減を考えるべきだったな。……というかそもそもやるな、このお馬鹿。

「それと、顔を掘らないとジャック・オ・ランタンにはならないぞ」

 顔を掘ったら掘ったで、奴の事だから両手血まみれだろうがな。いや、むしろソッチの方がそれっぽかったかもしれん。

「ああ……まあ、いいや」

 そうだな、んなこた心底どうでもいい。あ、そういえば彼の言動を見る限り、今日はハロウィンなのか。すっかり忘れていたね。時の流れは早い。

「で、どうするんだ? 僕にいたずらするのか?」

 まず時間感覚が無いのだから、何とも言えぬが。

「うん、そうさせて貰おうと思う」

 そしてこちらへ向き直る坊っちゃん。あ、奴頭にかぼちゃの身が付いてる。もっとちゃんとくり抜けよ、ヘタクソ。

「……へえ、それで何を?」

 警戒する僕。

「そうだねえ……」

 坊やはニヤリと口元を歪ませていた。さて、何も考えずに余計な事を言ってしまった気がする。鬼が出るか、蛇が出るか。

「…………」

 黙って次の言葉を待つ。

「…………」
「…………」

 しばしの間。

「…………」

 ……次の言葉が、出ない。

「……坊や」
「なんだい」

 そして、いつもの事を思い出す。僕はこの坊やにこういう事が向いていない事を、随分と前から知っていた。

「お前、いたずらが何か知らないな?」
「嫌がらせをする、という程度なら知っているさ」

 ただし、嫌がらせにしてもどの程度のものをどの様にやればいいかは分からない、だろう? 思わず気が抜ける。

「へえ……じゃあお手本を見せてやろうか」

 そしてその心の隙間を埋めるように湧き上がるのは、ほんのちょっぴりのいたずら心。

「ああ、なら頼も……何をしているんだ」
「何って、こちょこちょさ」

 いたずらと言ったら、まずはこれだろう。シャツの裾から服の中へ腕を突っ込む。そして出っ張った肋に手のひらを滑らし、脇の窪みで指先を細やかに躍らせた。

「へえ? あ、ちょ、え!? ん!? 何、え!?」

 どうも初めての感覚に混乱しているようだ。いい気味だ。僕なんて急に目の前へかぼちゃ野郎が現れて、ただでさえ短い余命がさらに縮まった気がしたんだ。ざまあみろ。

「ほうら、笑え笑え〜」

 こしょこしょ、こしょこしょこしょ。こう見えて僕はいたずらには自信があるんだ。

「あ、ひゃっ! あ、あは、あふ!?」

 ……なんだ、このあらゆる方向へ誤解を招きそうな喘ぎ声。

「お願いだから、もう少しちゃんと笑ってくれ」

 変なことしてる気分になるだろう。

「え、へぁ!? あ、は、あはは、あはははは!?」

 思わず手の動きを早めると、一回激しく笑ってから後はヒーヒーとしか言わなくなった。いいぞ、笑って笑って苦しめばいい。

「そうそう、そんな感じ」
「ひ、あは、あっ、ひっ、ひっ!」

 ところで、へえ、なんだ。奴も人の子だったんだな。いい顔してるじゃないか。


 ……そのままちょっと楽しくなって続けていたら、坊っちゃんの息が止まったのでクローンを呼びました。坊っちゃんは大慌てで何処かへ運ばれていきました。そんな、地下室のハロウィーン。まあ、いいと思うよ、うん。……ちょっとやり過ぎたけど。





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