【流動食3分クッキング 〜ただひたすら潰すだけ〜】


「おはよう、兵部クン」

 いつもの挨拶と共に顔面へ飛び散る水しぶきで、目を覚ます。

「…………」
「はい、朝食」

 そして濡れた目蓋を開いて見えた物は、空の水差しを手にしたギリアム。ああ、きっと小奴は朝の洗顔を済ませてやったつもりでいるのだろう。そうだ、きっとそうだ。得意げに少し上がった鼻先が彼の心情を物語っている。うん、腹立たしい。

「どうも……って、これ流動食じゃないか」
「そうだよ」

 まあ、それ位ならば些細なこと。それは置いといて、腹立たしい事がもう一つ。なんで僕の前に出された食器には、ドロドロの液体しか入っていないんだろうねえ?

「わざわざこんなの用意してくれなくても僕には君が食べるような物で十分だぜ」

 だって自分はそこまで弱っているつもりはない。やろうと思えばいつでも寝首を掻く位、造作ない。多分。
 青筋を立てながらそっとその隣りにある彼用の器を取ろうとしたが、笑顔のままに遠ざけられた。チッ、そっちにはちゃんとしたのが入っていたのに。

「今の君にお似合いだと思ってね」

 代わりにスプーンを差し出される。あくまでも、これを食べろというのか。

「あのなあ……」

 促されるままにスプーンまで握ってしまったが、ううーん。今の僕の健康状態的にも、流石に食べる気がしない。
 というか、これはこの坊やが作ったのか? 適当に色々混ぜ込んだ感が凄まじいぞ。トマトやパンの塊がドロっとしたなんとも言えない色の液体の上に浮かんでいるのが非常に気分を盛り下げてくれる。せめて全部潰せよ。
 後これ、もしかして爪じゃないよな? 白っぽい何かの破片みたいなのが浮いている上に坊っちゃんの人差し指にも包帯が巻いてあるけど、間違えて潰しちゃったんじゃないよな? ……な?

「うん、中々いいんじゃないかな」

 いやいやいや。よくないぜこれ。うん、全く良くない。

「あー、いや、いい。まだ普通の飯で結構」

 丁重にお断りさせていただく。当たり前だろう、これでは流石に食欲の欠片すらもそそられない。

「……僕を愚弄する気か、兵部?」
「はいはい、分かった、分かった! 食べるから! だから早く銃をしまいな!」

 ってーのに、ああ、もう。この小僧めが! 笑いながら銃を突きつけてくるんじゃない! しかも男たちの一番大切な場所に! ハエ事件の時の女帝か、お前は!

「なら、早く食べなよ」
「はいはい……」

 物騒な物を懐に戻した事に胸をなでおろしつつ、目の前の食事に向き直る。たく、しょうがない奴め。
 あーあ、間近で見るとこれ余計にめっちゃ不味そう。だが、残念ながらこの状況だ、今回はこれを口に入れるしかあるまい。……次は彼が普通の物を用意してくれることを、願おう。

「どう? マズい? マズい?」

 チクショウ、嬉しそうに聞いてくるんじゃあないよ。何歳だお前。そういや年齢知らなかったな、どうでもいいが。
 まあ、初めての調理にしちゃあ上出来だとは思うがね。子供のままごとみたいで微笑ましくすらある。

「おー、クッソマジィ」

 別に言わないけど。

「うん、だろうね!」


 …………こいつめ。





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