【さよならサンタ】


「ねえ兵部クン、今日は聖夜らしいよ」
「へえ」

 寝起きに何かと思えば、クリスマスか。そんな物もあったな。日付感覚狂ってて忘れかけていたけれど。真木たちはちゃんと子供たちにプレゼントを配付出来ているのだろうか。まあ、彼の事だから大丈夫だとは思うけれど。

「そんなもの、僕達には全く関係ないのだけれどね」
「ふむ」

 確かに。まずこんな状況だしな。それを抜いてもクリスマスなんかを自分のために祝った事、生まれてこのかたないし。だから子供たちのそばに居ない僕にはそんな吉日、なんの意味もない。

「サンタクロースなんかこの世にいるわけがないんだ」
「はあ」

 まあ、彼も状況は違えど、そうなのだろう。どうも彼は自分の為に祝われた事すらないようだし。そもそも、この日の存在を記憶していた事に驚きだ。こんな哀れな坊やだ、聞いた事すら無いと思っていたぜ。

「だから君には僕がこの靴下をあげよう」

 ……はい?

「へ? あ、ああ、どうも?」

 なんてしんみりしてたら、唐突に奴は白い靴下を投げ渡してきた。クリスマスプレゼント、ってか? いや待て、これ見覚えあるぞ。ああ! 僕が奴と争った時に履いてた靴下じゃないか! 今さらこんな物渡されても、ボロボロになってるし、まずこれをプレゼントというのはちとおかしいだろ。

「君は僕達の実験に協力してくれる、いい子だからね」
「んー? ……しょうがない」

 まあ、でもしょうがない。彼から常識がすっぽ抜けてるのは承知の上だ。内容はひどく、しかも元は僕の物でも、プレゼントを子供から貰ってしまったのだ。

「……は?」

 ちゃんと、お返しせねば。

「これが僕からのプレゼントだよ、坊や。もちろん、後生大事にしてくれてもいいんだぜ?」

 すい、と背筋を伸ばして、彼の頬へちゅっ、とキスを贈ってやる。普段子供たちにするような、軽い軽い、キス。

「は……?」

 すると奴は戸惑ったのだろうか。その箇所へやんわりと手のひらを当て、呆然とこちらを見つめてきた。

「じゃー、おやすみ。メリークリスマス、ギリアム」

 ああ、すっきり。してやったり、って奴だ。ちょっとした意趣返しさ。ふうん、コイツ、こういう間の抜けた顔も出来るんだなあ。

「…………?」

 きっとしばらく彼はボケっとこっちを見ているのだろうな。ふふ、そうだよ、それでいい。贈り物はちゃんとお互い渡しあった。だから、もういい。そんなものを気にする必要なんて無い。サンタのことなんて忘れろ。全ての子供の元に訪れないサンタなんて、僕達には必要ないんだ。





back






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -