【酷いものだ】


「うーん……」

 みんな。隊長。どうして死んだの。僕を殺したの。僕は死にたくなかった。隊長も殺したくなかった。

「ううーーーん……」

 どうして、ちゃんと僕の息の根を止めてくれなかったの。どうして。隊長。どうして。

「うううーーーーーん……」

 どうして。どうして、どうして、どうし、……ぐぶぁッ!

「うぉえっ……」
「あ、起きた」

 ああ、酷い目覚めだ。夢も大概なものだったが、ああ、それ以上に酷い目覚めだ。

「小僧、いい度胸だな、何しやがる」

 よくも寝てる僕の腹を思い切り殴ったな。

「うなされていたからね」
「あ?」
「うなされている時はこうすると、目が覚める。実に喜ばしい」
「まあ、目は、覚めるだろうね……」

 そして奴に悪意が無いことに気づく。なんだ、馬鹿なのか。馬鹿なのか、殺すぞ、そんな事情腹の痛みと全く関係ない。死ぬかと思った。

「使用人たちがよくそうやって起こしてくれた」
「ああ、なるほど」
「うん」

 頭を抱える。ふむ、これは僕の夢や目覚めよりも酷い情操教育だ。

「坊や、ちょっとおいで」
「何故?」
「いいから、そこに寝転がれ」

 ちょいと修正してやろうと、ベッド(手術台)の横をポンと叩く。

「わかったよ」

 よしよし、素直な子は嫌いじゃないぜ。

「目を閉じろ」
「その間に君は逃げたりしないか?」
「しないしない、だから目を閉じろ」
「ん」

 逃げれるならとっくに逃げてるよ、坊や。
 内心憎々しく思いながら、目を閉じたギリアムの頭を撫でてやる。額に手をかざした時、無意識だろうか、少しビクついたのが気に触った。

「これ」
「ん?」
「悪くない」
「そうかい」

 僕も嫌いじゃないよ。お前の髪はふわふわで、手触りがいい。

「うん……」
「………」
「……坊ちゃん?」

 暫し撫で続けていると、あれだけぺちゃくちゃうるさかった声が聞こえなくなった。不審に思いながら耳を傾けると、微かに寝息が聞こえる。

「あれ、寝たのか」

 寝てる時はこうやって起こすといい、なんて伝えようと思っただけなのに。逆に寝てしまった。寝首をかかれるとは思っていないのか。それとも今の僕にはそんな力すら無いと?
 そう、胡乱げに思いながら顔を覗きこむと、彼は酷く安心したような顔をして眠っていた。どんだけ油断してるんだ。馬鹿か。でもきっと僕が外へ行こうとしたら、すぐに目覚めて捕らえるのだろう。腹立たしい。

「どれ、子守唄でも歌ってやろうか」

 ぼそぼそと昔子供達によく歌っていたのと同じのを囁いてやる。恐らく、この坊やがそれを聞くのは初めてなのだろうな、なんて柄にもなく沈みながら。






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