【絆されかけ】
「いででで」
背を裂かれた。赤で辺りが染まるのが見なくてもわかる。痛みに背を逸らすと、拘束具がピンと突っ張った。
「え、痛い?」
「痛い痛い、もうちょっと優しく」
「こうかな」
メスを走らせるのに優しくも何もあったもんじゃない気はするが、僅かに手つきが柔らかくなったのが感じられて、安堵する。どうせ痛むのなら、静かにやってくれた方がいい。抵抗出来るならその限りでは無いけれど、残念ながら今は抵抗すら出来ないし。
「あぁんっ! そう、そんな感じぃっ!」
「そういうの、やめてくれないか」
「どうして」
カチンと来てちょっとからかってみた。あくまで棒読みだが、嬌声を上げて震えてみると苦い顔をする。坊やよ、こういう所は初心なのか。
「変なことしてる気分になるだろう」
「解剖は変なことじゃ無いのか?」
「あ、変なことだ」
そして、妙な所では素直、と。
「だろう」
「うん」
子供のまま大人になったような奴だと心底思いながら彼の腕に身を任せると、そのまま意識が飛んだ。きっと麻酔を刺したのだろう。珍しい。
中途半端な優しさを感じながら眠りにつくと、懐かしい夢を見た。早く、早くここから出ないと。僕はきっと、おかしくなってしまう。
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