*皆本光一はエンバーミング作業中。



【白い肌に浮かぶアカ】


「……あ、見て、これ」

 二人でラブラブイチャイチャ、一緒に入浴中。何ともいい気分で湯に浸かっていた中、彼はついと私の二の腕の辺りを指差した。

「垢」

 そして地味に恥ずかしい事を口にする。垢。なるほど、確かにそこには薄く茶色い皮膚の破片、要するに彼の言うとおり垢その物が、浮いていた。
 ああ、顔が真っ赤に染まるような心地だ。そんな、人間なら誰でも風呂に入れば出てくる生理現象だとしても、これでも私は乙女なのだ。好いた人にそれを指摘されるのは、少々辛い物がある。

「笹子も、ちゃんと人間だったんだ」

 そりゃあそうだ。幾らなんでもこんな事で今更確かめられても。むしろそんな事を言う彼は、今まで私の事をなんだと思っていたのだ。

「なんか、虫か人形か何かの様に見えていてね」

 ……こいつめ。花の乙女に虫だ何だと言う奴があるか。

「キャリーは天使に、薫は子供の猫に見えたものだけれどもね。君は大体、そんな感じだった」

 あ、賢木はカニかな。なんて笑って言う彼が少々憎らしい。否、少々どころではないか。とてつもなく、憎らしい。私だってカニはともかく、天使や子猫がよかった。

「でも今の君は前よりもずっと人間らしくて、僕は好きだよ」

 ……しかしこう言われてしまえば適わない。彼からの好意を寄せる言葉。今までは一度だって聞くこと叶わなかった夢。それを聞く事が可能となると言うのならば、私は永遠に黙っていることさえ出来るのだ。彼は、この湯気の向こう側の様に心の先の読めない人だったから。

「君を殺して、本当によかった」

 あなたに殺されて、本当によかった。





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