*R-12も無い位の微かな血液表現。
【血塗れの腕にキスしよう】
「人を、殺したの?」
何処から帰ってきたあの人の腕は、血塗れだった。
「うん」
まあ、それは正直どうでもいい。そんな事よりもずっと気になったのは、あの人が今にも泣きそうな顔をしていた事。いつもは不遜な、天上天下唯我独尊、なんて顔で私を振り回すくせに。
「そう」
そもそも彼が人を殺めるのは初めてではないのだ。むしろ、よくある事だと思う。それが彼の生きる道であるから。
「……うん」
だから不思議だった。人を殺すのはいい。しかし、何故そんなに苦しそうな顔をしているのか。いつもは自ら処分なり洗濯なりする学生服を、返り血に赤く染めたまま着続けているのか。
「まあ、いいじゃない」
そんな理由もまた、どうでもいいか。問題は、彼がきっと何か温かいものを求めているだろう事で。
「……ありがとう」
だから私は何も言わずに貴方を抱きしめよう。そして血塗れの腕へ慈しむようにキスをしよう。それが貴方の望むことならば、私は貴方の為に唇を毒で汚すことも厭わない。
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