*001同主人公。夢主をギリアムが椅子にしています。
【君だけでいい】
「あの、ギリアム様」
下から、おずおずとした声が掛かった。
「なに」
しばらく静かだったのに、一体何の用だと言うのだろう。ティーカップを傾けながら声の方を向くと、ナマエの不満気な顔がギリアムの目に映った。
変な顔。彼女はいつもこんな表情ばかりだ。ジトッとした目が自分をうっすら睨めつけているか、もしくは死んでいる様に見えなくもない程に疲労の溜まった顔かの、二択。
そう考えながら何の気なしに彼女の頬をつつくと、今度は眉根に皺が寄った。もっと変な顔になった。これも、いつもの事だ。
「重いです」
まあ、彼女をいつもそんな表情にしているのは、どう考えてもその体の上に乗っかっている彼が原因なのだが。
お馬さんごっこの体勢と言えば伝わるだろうか。馬はナマエで騎手はギリアム。彼はまたいつもの気まぐれでこんな妙な事をしている。紅茶を飲む時の椅子に丁度良い高さだそうだ。
「気のせいだよ」
せいぜい30分そこら。まだまだティータイムは始まったばかりだ。
ちらりと時計を見やり、ギリアムはテーブルのスコーンを自分とナマエの口に押し込んだ。やはり紅茶にはこういう菓子がよく合う。パサパサと水分を取られた口内に熱めの紅茶を流し込んで湿らせると、甘いメープルシロップの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
「はあ……」
言っても無駄だと判断したのか、次に聞こえたのはただの溜息だった。しっかりと咀嚼し、嚥下してからなのがナマエらしい。
しかし、彼女は紅茶は要らなかったのだろうか。焼き菓子だけではすぐに口の中が乾燥してしまうだろうに。勿論、彼にそれを与えるつもりはほとほと無いのだが。
「……くくっ」
ギリアムの喉奥で笑う声が部屋に響く。ちなみに彼からすればスコーンも、紅茶すらも、無いならば無いで別にいいらしい。
「一体、何がおかしいんですか……」
「さあね」
ナマエさえいれば、それでいい。
「はあ……」
妙な者に気に入られてしまって、彼女もとんだ災難である。ナマエは先程から悲鳴を上げ続けてる自らの背骨が折れぬ事を、せいぜい彼の下で祈るしか無いのだった。
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